2017年7月13日(木)
<レポート>
【地産地食の学校_01】
EAT&THINK
案内人:原川慎一郎シェフ
2017年7月2日(日)に開催された【地産地食の学校】
今回の案内人は原川慎一郎さん(BEARD Chef)
第1部「EAT:BEARD スペシャルランチ」
第2部「THINK:学校」<農と食と旅と>
多くの方にご参加いただいたこの日の様子をレポートします。
【EAT:BEARD スペシャルランチ】
原川シェフには、イベントの数日前から神山入りしてもらい、私たちの畑「つなぐ農園」を巡ってもらったり、フードハブのメンバーと時間をすごしてもらいました。
その中でも大切なのが、メンバーとのミーティングの時間です。
原川さんと支配人の真鍋が一緒に活動するNomadic Kitchenでも、仕込みに入る前のこの時間を一番大切にしているそうで、原川シェフが「ギリギリに調理した方が良いものに関しては、明日直前に仕込む」と説明します。食材の良さを可能な限り引き出すと同時に、「準備しすぎないことで、また味も変わっていくる」と原川シェフは言い、メンバーの力もギリギリまで引き出します。
当日のかま屋のランチは、原川シェフのスペシャルランチ。特別メニューだけあって、多くのお客様にお越しいただきました。
ビーツのサラダがあり、トウモロコシのフリットがあり、サラダやローストポーク…ソースは夏みかんの淡い黄色やパクチーの緑。色鮮やかなワンプレートに、食べる前から「おいしい」を感じました。
原川シェフ、そしてかま屋料理チームのメンバー、ごちそうさまでした!!!
【THINK:地産地食の学校】
テーマは、「農と食と旅と」。
これまでの食の旅を通じて、原川さんは、今、何を感じているのか。
どのような想いで、シェ・パニースの元総料理長のジェローム・ワーグと新たな会社「RichSoil & Co.」を設立し、新しいレストランを準備しているのかなど、フードハブ・プロジェクト 支配人の真鍋が聞き手役となり進めました。
まずは、真鍋が「地産地食の学校」からのお願いを参加者の方々に説明します。
ゲストはあくまでも「案内人」で講師ではない。お互いの専門性を捉えて、みんなの「学び合い」の場にしていきたい。なので、みんなで聞いて話しをましょう。そして、小さな「地産地食」を日常にするために、明日から何かをはじめて見ましょう。というのがこの学校からのお願いです。と支配人の真鍋が説明します。
それに基づき、一問一等のテーマに沿って真鍋の問いに、原川シェフがこたえていくスタイルです。それぞれのテーマのあと、参加者のみなさんが近くの人と2分間話すという時間をもうけました。
テーマ、こんな感じでした。
・料理:「記憶」にのこる料理
・料理:「食材」と「メニュー」
・農:「基準」
・料理人と店:Chez Panisse & Jerome Waag
・料理人と店:「役割」
テーマごとに、ご紹介していきます。
–料理:「記憶」にのこる料理–
真鍋)原川さんの「記憶」にのこる料理って、なんですか?
原川)約6年前のOPENharvestというイベントの料理教室で味わった「かぼちゃのラビオリ」。
勉強のために前衛的なレストランで食事をする機会もたくさんあって、その場で美味しいと感じるし、驚きもあるけど、記憶には残ってはいない。
そんな中で、カリフォルニアのシェフの料理教室に参加して作って食べた、かぼちゃのラビオリ。「これって料理なのかな?」と思えるほど簡単なプロセスなのに、めちゃくちゃおいしかった。それが本当に記憶に残っているんです。結局のところ、そういった料理のほうが記憶に残ってるんです。
–料理:「食材」と「メニュー」–
真鍋)日々のメニューってどうやって考えていますか?
原川)付き合いのある農家さんや生産者さんへ連絡して「その時期にあるもの」を教えてもらう。その時にあるものや「これ入れといたよ」みたいな、目の前に揃ったものでも、何をつくるかを考えます。
真鍋)ちなみに、今日の「かま屋」でのスペシャルランチのメニューは、どうやって考えましたか?
原川)10日くらい前から、今週どんな食材が採れるかをフードハブの農業チームとやりとりしました。
神山に来てから「柑橘は何がありますか?」「スダチはまだ少し早い」「柑橘(夏みかん)ならあるよ」というやりとりをして。柑橘を使うと白ワインビネガーはいらないし、甘みが強い人参だからコリアンダーと合うだろうなぁ〜とか。
原川)また、前日に畑にも行って。パクチーシードや他のハーブ類もたくさんあったので、それをサラダのドレシングに使おうとか、その場で色々話し合って決めていきました。
真鍋)即興的な料理をされるということですよね。そこにある食材で、例えばあまり組み合わせのよくない食材が揃っている場合は?
原川)合わない食材は、ないと思っています。合わない時は、バランスが崩れているだけ。バランスをとって組み合わせれば、どんな食材でも合うと思います。食材と料理をつなぐ部分でバランスをとってあげる、その役目が自分です。
–農業:「基準」–
真鍋)農家さんを含む、生産者さんたちとのお付き合いの基準ってありますか?例えば無農薬じゃないとだめとか。あるとしたら、その基準についてどう考えていますか。
原川)まずは、生産者さんに会いに行く。話を聞く。どんな思いを持ってつくられているのかを知る。そうすると、みなさんそれぞれに思いを持っていることがわかる。もし農薬を使っているなら、農薬を使うことにもそれぞれの理由がある。例えば、「今は環境の変化に対応できていなくて農薬を使わざるをえないんだけど、もっともっと勉強して成長して、有機的な農業にしていきたい…」という思いを聞いてどう思うか。「この人に一票入れたい」と思う人には、「農薬を使っているから」という理由だけでやり取りをやめることはないし、そこで線引きしてしまうと、お互いに発展がない。だから、まずは会いに行って話を聞く。
真鍋)やっぱり、おいしくないとダメ?
原川)「この野菜、美味しくないよね、使えないよね」で終わるんじゃなくて、原因があってうまくいかなかったものがあったとしても「じゃぁ、それをどうやって扱おうか」と考えるのが料理人の役目。もちろん、おいしくできたものについては、本当にありがたい。
真鍋)つくり手(生産者)さんを訪ねる旅をされていますが
原川)今、お取引をしている方たちは(一部八百屋さんとも取引があるので100%にはならないが)、ほとんどはお会いしている方です。その方がどんな思いで、なぜその選択(つくり方)をされているのか、というところを知りたい。だから、つくり手さんとのコミュニケーションは大切にしています。
–料理人と店:Chez Panisse & Jerome Waag–
真鍋)原川さんにとって、シェ・パニースってどんな場所?
原川)フランス料理をやってきた経験のなかでは「キッチン=常に急かされている場所」でした。それが当たり前だと思っていたし、プレッシャーや緊張がないと料理って出せないと思っていました。でも、シェ・パニーズのキッチンに入ると「おはよ〜」「週末どうだった〜」とかなりゆるい感じで、最初は「これで大丈夫なの?」と思って、どこかでプレシャーとか緊張感が出てくると思ってたんですけど、そのままのテンションで黙々と料理して終わるんですよw。
最終的には「プレッシャーとか緊張を感じなくても料理ってできるんだ!」と衝撃を受けました。
本当にミスなんか許されないキッチンなんだけど、みんなが優しい。初めてキッチンに入った自分(原川シェフ)に対しても、手を止めて「どうしたの?」「何か探してる?」と聞いてくれる。これにも衝撃を受けました。
愛が溢れてるんですw。
真鍋)そういうシェ・パニーズの文化はどこからきているんでしょう。
原川)ジェローム(Chez Panisseの元総料理長)がいうには「アリス(アリス・ウォータース:シェ・パニースの創業者)の寛大さがあるから、みんなにそれが伝わって、そのような立ち居振舞いができる」といいます。
真鍋)でもヘッド・シェフにはそうとう厳しいらしいですね。
…さっきの–「食材」と「メニュー」–の話に戻ると、シェ・パニースのメニューは、どうでしょうか。
原川)食材ありきですね。彼らも長年付き合っている農家さんを中心に、その時期にある食材で一週間のメニューを考える。それで1階のレストランでは、毎日違うメニューをコースで出している。
真鍋)(シェ・パニースのように)愛が溢れるようになるポイントはどこにあると思いますか?
原川)みんなでまかないを一緒に食べること、みんなで座る時間。そして、環境づくりだと思います。
真鍋)シェ・パニースの卒業生でカリフォルニアの超人気店『RAMEN SHOP』のオーナーのサムに、自分のお店のメンバーが生き生きと働けるコツはなに?と聞いたことがあります。
その時に彼が言っていたのも「一緒にご飯を食べること、そして、学び続けられる環境を作ること」と言っていました。実際に、RAMEN SHOPのメンバーは、ものすごく楽しそうに働いていました。
–料理人と店:「役割」–
真鍋)料理人の役割と、お店の役割、東京の役割、それぞれ聞きたいのですが、原川さんが考える「料理人の役割」は?
原川)一次産業に関わっている人たち(つくり手さん)たちの思いを、食べる人たちに届けること。それも自然と一緒に。今、すべての食べ物が自然から育まれているというつながりが意識しづらくなっている。そこがつながっているというこを、料理と一緒に伝えていくことが料理人の役割だと思っている。
真鍋)では、東京の役割は?
原川)今はいろんな縁があってたまたま東京にいるけど、全国の産地巡りをしている。こういう活動そのもの(産地めぐり)に興味を持たれている人たちもいる。そのような人たちへ伝えるという役目が自分にはある。どうしたら、自然にもっと思いを馳せてもらうことができるかを考えている。
真鍋)原川さん自身の役割は?原川さんの料理のファンも多いし、予約がとれない店を閉めてまで(ジェロームさんと)新店舗を立ち上げているのはなぜ?
原川)神山町にきて、山がとてもいいなぁと思った。おそらく自分は、ここにずっと昔から住んでいた人たちとは違う景色の見方をしている。同じように、ジェロームが新しいものの見方で日本の一次産業を見ると、何か新しい取り組みができるかもしれない。今後あまり自分がキッチンで料理をすることはないけど、料理が最優先じゃなくてもいい。料理はできなくとも、別の役割を担っている。でも、やりたくないことはできない。今は、これがやりたいことだからやっている。
–最後に:参加者からの相談(感想)–
真鍋)原川さんが「主婦」の方にご意見伺いたいと言っています。どなたか?
※写真の方とコメントは一致しません。
Aさん)「かま屋」や「かまパン&ストア」のような地域密着型のお店は、都会では手に入れられない何ものにも代えがたい豊かな環境だと思っている。
Bさん)今日の話を聞きながら、楽しんでやることが大事っていうことを再確認できた。子どもにとって、お母さんが楽しんでやっている姿を見せていきたい。
Cさん)自分の住んでいる県の食材を発掘してほしい。
Dさん)スペシャルランチのスープがすごくおいしかったんですが、どうやって作ったのですか?
原川)それ、僕が作ってないんです。(笑)
真鍋)作ったのはうち(かま屋)の料理長、細井ですね。(笑)
細井)野菜と水とオリーブオイルと塩。野菜は玉ねぎ、人参、じゃがいもです。すごくシンプルに仕上げてます。ちょっとクサい言い方だけど(笑)野菜を信じて、塩だけで味付けしています。
真鍋)原川シェフの料理に対する向き合い方と、かま屋の向き合い方も同じということですかね。
Eさん)以前、女木島のノマディック・キッチンのイベントに参加した。今日は原川シェフの生の声が聞けてとても嬉しかった。
Fさん)ジェロームさんとのお店はどういうお店にしていくのか?
原川)大きな目標ですが、日本を100%オーガニックにすると話しています(笑)
どうやったら少しでもそこにたどり着けるか。もうちょっと自然に目を向け直して、どうやって寄り添って、育んでいけるか。人の手が入っていない自然はもうほとんどないのかもしれない。ジェロームと話しているのは、地球をガーデン(庭)と呼ぼうと。我々が今の状態にしてしまったので、改めて他の生き物たちと寄り添って、庭に手を入れていきませんか、と。
「基準」の話に戻るけれど、ストイックになると楽しくなくなってくる。目指したいけれど、それぞれ自分たちにできる範囲でやっていこうと思うことが大事。そういう気持ちを大切にしていきたい。
真鍋)原川さんたちの「一緒にいこうよ!」って誘ってくれているようなスタンスが心地いいよね。
原川シェフの想いと空気感が参加者のみなさんにも伝わり、かま屋は心地よい温かさに包まれていました。
原川シェフ、おいしいお料理と貴重なお話をどうもありがとうございました。またお会いできる日を、メンバー一同楽しみにしております。(意外とすぐで、8月かも!?)
次回の【地産地食の学校】は7月27日(木)15:00−17:00
案内人は、奈良の「くるみの木」 オーナーの石村 由起子さんです。詳しい情報とお申し込みはこちらより。