食農教育をそだてる勉強会 レポートNo.06
公開インタビュー「なぜNPOに?」後編

食育

こんにちは。フードハブ・プロジェクト 樋口です。

フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)では、2022年4月の食農教育NPO立ち上げに向けて、全3回の勉強会を開催しました。

今回は、第2回の前夜祭として開催した、甲斐かおりさんによる公開インタビューの様子、後編です。全国各地を取材され、地域づくりや農業、食をテーマにした記事を執筆されている甲斐さんに、フードハブからスピンアウトするNPO設立に向けた経緯や思いをインタビューしていただきました。前編はこちら


非営利部門の葛藤

甲斐)教育は、その成果がすぐに見えてくるものじゃないですよね。会社のメリットとして見ると、純粋な利益としては、皆無なんじゃないでしょうか。それを事業の一つに大きく据えて、専任(樋口)がいて、会社をあげて一緒にやってきたっていうのはどんな気持ちや思いがあったのでしょう。

真鍋)経済合理性の観点で見ればメリットはないでしょうね。でも、やらないっていう選択肢はなかった。立ち上げ当初はまだお店がなくて農業も始まったばかりだったので、食育でがっつりやろうと。初年度は加速化交付金があったので神山校(町の農業高校)のプロジェクトから一緒に始めました。
次年度はほぼ自社の資金でやったけど、その時にもやめる選択肢はなかったですね。その翌年度からは、役場から業務委託として受けるかたちになりました。
樋口は肩身の狭い思いをずっとしてきていたなと思う。私からすると「関係ねぇじゃん」って思うんだけど。

甲斐)それだけ会社が厳しくて、仲間が必死になってるときに(生産性や効率で考えると)成果が出せない教育部門をやってていいんだろうかって思うのはすごく理解できます。

真鍋)樋口は3ヶ月ごとに「辞める」って言ってました。私がやった仕事は、彼女と3ヶ月ごとに話して、こうやってみた方がいいんじゃないっていうのを言い続けること。

樋口)辞め方と続け方を相談し続けてました(苦笑)。

甲斐)結果的に、食農の活動が神山の中では浸透してきているわけですよね。1年生が、5年生になるまで毎年関わることができたり、学年で種を継いでいく活動が続いていたり。今回NPOを立ち上げるのは、株式会社でやれることが限られるからという理由だけではなく、もっとやりたいという気持ちがあってのNPOなのではと想像しますが。

樋口)「食農教育」ってすごく大事だと思って進めてきたんですけど、それは先生たちにとってどうなのか、保護者やまちの人にとってはどうなのか。「まちの食農教育」についてみんなで考える場を作っていきたいと思ったし、その価値について、自分も確かな言葉が欲しいと思いました。だから大事なんです!!っていうための。手応えはあるんだけど、それを人に伝えるためのいろいろを作っていきたい。

甲斐)食と農のことをもっと深められる、大人に対しての食育もできるような研究所のような場所かな。幅広く、より主体性を持つためのNPO化なのかもしれませんね。

真鍋)良い活動を定着させ広めていくと捉えると、体系化して、それを扱いやすいパッケージやツール、技術にしていくことはNPOでやってくべきことなんだろうなあ。

甲斐)すると、フードスタディーズの考え方はすごく生きてきますね。必ずしも研究機関だけの話じゃない。在野で研究と連携しながらNPOの立ち位置が作れるのであれば、すごい画期的なこと。

樋口)フードハブは過去から現在という時間軸に重点を置いてきたように思います。食農のプログラムをやるときにも、過去から現在を「つなぐ」ことを大事にしてきました。これからは「未来」も考えていきたい。「これからの農業」や「これからの食」は、子どもたちの周りにいる大人もそれを勉強していくことがとても大事だし、私もそんな場を欲しています。

甲斐)神山で食農教育を受けている子どもたちが、家ではどんなふうに家族とごはんを食べているのか。そういうものがリアルに出てくると、都会との比較もできるかもしれないし、大人に訴えかけるものとか、社会に対して言えることがすごく増えるんじゃないかと想像します。そういう役割を果たせたら、より面白いんじゃないでしょうか。

食農NPOへの期待

甲斐)社員が独立してNPOを立ち上げるわけじゃないですか。期待している部分とかありますか。

真鍋)ないかもね。

樋口)期待してくださいよ(笑)。

甲斐)食農や教育をテーマにしたNPOが新しくできる、というニュートラルな見方をすると、フードハブとどんな相互作用ができていくのでしょう。神山の食や農をより発展させられるという視点で考えられることってないですかね。

真鍋)NPOに切り出すことで、食農教育という人格を持てるようになるのはすごく良い。フードハブってオープンなふりして割とクローズドだと思うんですよ(苦笑)。関わりやすいかっていうと、めっちゃ関わりづらい。

甲斐)組織として?

真鍋)はい。私もオープンじゃないんで(笑)。本来はすごく公共性が高いものごとであるべきなんだけど、関わりづらいものごとになっていた。これからは、いい意味でオープン化されていくと思います。

甲斐)そういう意味では、一株式会社から切り離されることによって公共性が増すことはあるかもしれないですね。

真鍋)我々が、社会・公教育に対して食と農を通じてどう貢献できるのか。NPOに切り出して役割を分けてやり始めるのは、想像以上の意味合いがある。自分も勉強しながら見えてる景色ですね。

甲斐)すごく可能性があるように思います。生産者も含めた実働があって、そこにきちんと論理や研究などの視点が入ってプログラムが作れたら、相互作用で生きることがたくさんありそう。
最後に神山つなぐ公社の森山さんから、期待するところを。今まで一緒にやって来られて、どう見ているのでしょう。

森山)(突然で)びっくり。つなぐ公社の森山です。そうですね。ここまでの流れが自然だなあと思っているんです。5年間の蓄積があって、営利企業の中で非営利部門を持ち続けている苦しさ、難しさみたいなものも常に聞いていて。
そのなかで、最初は「食育」と呼んでいたのが「食農教育」という言葉を得たことは大きかったと思います。自分たちがやっていることを言葉で獲得した瞬間。食育の取り組みは全国にたくさんあるけれども、食農教育に取り組んでいる人はまだまだ日本の中でも存在として少ないんじゃないかと気づいたんですよね。

甲斐)なるほど。

森山)それが獲得できたならば、次の展開があるというか。活動の意義を社会的に訴えていける可能性があるし、やってきた分、伝えられる存在になってきている。

甲斐)可能性を感じますね。フードハブが元々描かれていた花びら図が成立するのであれば、多くの中山間地の小さな地域で農業をなんとかしなきゃいけないとか、次の後継者をと考えてらっしゃる人たちにとっての一つの解になる。そこに繋がるようなNPOになったらいいなって、思いました。


 

NPOの立ち上げは、未来に向かって進んでゆくための決断でもあります。
まだまだ模索している部分が大きいですが、これまでの活動をもとに多くの人に伝わるような未来の姿を描き切ることができれば、それに向かって進んでゆくのみ!!がんばります。

甲斐さんにはじっくりと(これまで表に出ていなかった悩みも含めて)お話を聞いていただき、ありがとうございました。

▶︎翌日の勉強会へつづく。


甲斐かおりさんによる 神山校3年生に向けた特別授業の様子もご覧ください。
▶︎「神山校特別授業 フリースタイルライティング」

この日誌を書いた人

樋口明日香

NPO法人まちの食農教育
樋口明日香 (ひぐち あすか)

前フードハブ 食育係。徳島市出身。神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年からフードハブに参画。2022年3月より現職。まちの小・中学校、高校、高専の食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる学校食」を模索中。 https://shokuno-edu.org/

その他の活動

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