食農教育をそだてる勉強会 レポートNo.02
大元鈴子さん「〝フードスタディーズ〟ってなに?」

食育

こんにちは。フードハブ・プロジェクト食育係の樋口です。

フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)では、2022年4月の食農教育NPO立ち上げに向けて、全3回の勉強会を開催しています。目的は、NPOの立ち上げについてみなさんに知ってもらうことと、参加者のみなさんからも期待や課題感を聞かせてもらうこと。そして、NPOが目指すこれからの「食農教育」について一緒に学び、考えていく場を持つことです。

9月6日に開催した第1回では、鳥取大学の大元鈴子さんと慶應義塾大学の石川初先生をお招きし、〝フードスタディーズ〟や神山の農風景についてお話を伺いました。
3部形式で開催した今回、当日の様子を3回に分けてレポートします!

▶︎ 第1部/大元鈴子さん「〝フードスタディーズ〟ってなに?」(今回)
第2部/石川 初さん「神山の農風景をめぐって」
第3部/池田勝彦教頭・梅田学さん「城西高校神山校〝まめのくぼ〟のフィールドから」

〝フードスタディーズ〟ってなに?

大元鈴子さん

大元鈴子さんは鳥取大学の地域学部の准教授です。カナダ留学中に「フードスタディーズ」を学び、海外でフィールドワークしながら認証制度のお仕事や研究にも携わってこられました。現在は鳥取県智頭町の古民家(畑付き)にお住まいで、ご自身の食べる野菜はほぼ自給されているそう(参考:2021年1月から8月までに購入した野菜はたった 3,017円 だとか!)。

大元)今年の春から、苗を買わずにすべて種から育てることにチャレンジしました。お肉は自給自足できませんが、近くで鹿の処理をしてくれる場所があり、庭のハーブとあわせてソーセージにして食べます。食があまりにもシステム化して人の手から離れすぎていることが研究を通じて分かってきたので、食料を自分の手でつくる技術は知っておきたい、と思っています。

大元さんがコロナ禍でまずとった行動は「種を買う」ことだったそうです。神山の農家さんも「有事の時には、まず種を買う」と話していましたが、アメリカでも「種」や食品の保存瓶が手に入りづらい状況だったようです。日本では、災害時にコンビニの棚から商品がなくなる光景は見られますが、種にまで意識が及ぶ人は多くないかもしれません。「根本的な食システムの改革が必要」と大元さんは話します。

例として見せてくださったのはトルコの小麦畑の写真です。

トルコの小麦畑

大元)我々が食べているイタリア産のパスタの大部分は、トルコのデュラムセモリナ粉からできています。小麦の栽培のために地下水をくみ上げすぎて大規模な陥没が起きているところで、人が落ちたら上がってこられないすごい深さなんです。我々がイタリア産のパスタ「おいしいよね」と食べているのは、かなりの量がトルコからのデュラムセモリナ粉がイタリアでパスタになってるっていうもの。我々の食は、ここにぶら下がっている、というのを象徴的に感じた場所でした。

〝フードスタディーズ〟は、大元さんの言葉で言うと「食べ物と人間活動についての研究」。社会、文化、環境・経済、地理、農業、マーケティングなどの様々な要素を含んだ分野横断型の研究領域とも捉えられ、農業技術、栄養学といった従来の食に関する専門的な学問を超えて、より広い社会科学の分野で研究されるようになってきました。大元さんは、複雑な情報や要素を統合するような問題解決型の能力育成に〝フードスタディーズ〟が役立つのではないかとおっしゃいます。

大元さんからは〝フードスタディーズ〟の視点について4つのテーマでお話がありました。

食に関わる多様な要素を紐解く
❶ 因果関係で見る
❷ 歴史・地政学でみる:食料体制論( Food regime)

食のスケールを考える
❸ ローカルの範囲:ローカル化(Localization)
❹ 誰のための食か?:食の主権(Food sovereignty)

どれもたっぷり話していただきましたが、ここでは①と③についてご紹介します。

❶ 食にまつわる多様な要素を紐解く/因果関係

大元)フードスタディーズは食の研究としてだけではなく、複雑な因果関係を思考するという考え方の練習にもなります。一見因果関係が見えないもの(例えば、トーストとオランウータン*)のつながりが分かると、別の現象を見たときに背景にある因果関係を想像できるようになったり、関わっている複数の要素が分かるようになります。このような考え方や思考方法は「一人学際研究」とも呼べます。
※)マーガリンの原料であるパーム油を効率的に採取するために、熱帯雨林を切り開いて油ヤシのプランテーションをつくる。結果として多様な生物が住めなくなり、住人であるオランウータンも数を減らしている。

❸ 食のスケールを考える/ローカルの範囲?

大元)「あなたのローカルの範囲を教えてください」という質問をすると、ある学生は鳥取の周辺を、ある学生は高松と三木町の半分ずつを、またある学生は日本というふうに答えます。ローカルは、地理的な範囲というよりは、何らかの心理的帰属意識が持てる範囲なのかなと思います。
食に関するローカルの定義にはいろいろな考え方があり、一つは地産地消。生産と消費を距離的に短くしようと、地域内で作ったものを地域内で消費しようとする考え方。アメリカの農務省が示すローカルフードの範囲は400マイル、つまり640キロ。日本に当てはめると国土の4分の1が入る範囲です。アメリカと日本では地産地消の範囲も大きく感覚が違ってきます。
地産地消の観点から見ると、バナナやコーヒー、チョコレートなど地域外で作られるものは食べない方がいい、ということにもなりかねません。そのときに助けになる考え方が「食の地域化」です。地理的な距離でローカルを区切るのではなく、関係性をもっと密接にし、生産者の特徴を反映して流通させればいいという考え方です。生産と消費の関係を持続可能なやり方で結びつけるプロセスと考えることができます。言葉遊びになりますが、地産地消の「地」を「知」に変えて「知産知消」と言えば、生産地や生産者を知って食べて、つくる方も消費者がどこにいてどんな人たちかを知って生産する、という関係性の短縮ができます。

大元)正直、食育とか興味なかったんです。でも樋口さんの紹介していた「学校給食改革 公共食と持続可能な開発への挑戦」 には今日お話ししたローカライゼーションなどの言葉がたくさん出てきていて、近い分野なんだなと思いました。
NPOのコンセプトにもある「物事の成り立ちがわかる」というのはまさに今日お話ししたフードスタディーズと重なっています。日本の農地の4割は中山間地域にあり、中山間地域の農業がダメになると日本の食料が確保できなくなる。中山間地域における食生産を維持するときには、食の流通に都市部も含めて参加できないと、日本の食べ物の将来はありません。
「知」産知食、それからフードハブが銀座でやっている「友産友食」というような、地域内循環を保つために地域外も巻き込む視点も必要だと思います。不特定多数の流通から、特定多数の流通へどうやって巻き込んでいけるか、その供給についてはこれからの私の研究課題です。

真鍋)フードスタディーズって、学校側から見たらどういうものなんだろう?

森山)高校で社会人講師として勤めているので、学校現場側から話を聞いていました。新学習指導要領では、「教科横断的な学び」「カリキュラムマネジメント」など言われるようになり、その中で、「コンテンツからコンピテンシー(資質・能力)へ」とも言われています。「食」を軸にすると社会科も学べるし理科も、数学も国語もというように、コンテンツを教科横断的に学ぶっていうのはこれまでにも取り組んできたこと。それももちろん大事ですが、これからを生きる子どもたちを考えると、教材の中で何を身につけて欲しいと思って授業をするのか、教育者側が共通理解をもつことの必要性が言われているんです。フードスタディーズのなかで「因果関係を考える」というのは面白いと思いました。

石川)つくづく「食」は全部に関わるので、切り口としてすごく面白いと思いました。あとローカルの概念をリニューアルしていこうとする話がいい。知るローカル。
一方で、先生のお話を伺ってると、「コーヒー飲んだから生産地に行かないといけない」みたいなことになってもそれはそれでいいよなと思いました。それって「コーヒーを飲む」っていう経験を何か大事なものにしていくことなのかな。
テリトリアルで考えると「流域」があると思うんですよね。神山は町域が鮎喰川の流域なので、地域として把握しやすいし、多様なので、それは一つの単位としていいんじゃないかと思いました。

真鍋)ローカルというのはアイデンティティーの話だと思っていて、食を通じて自分のアイデンティティを獲得していく。給食のような毎日食べるもので神山に愛着を感じるようになる。城西高校の取り組みも、生徒が神山のことを好きになってきていると聞いています。今回の話はローカリティの定義でもあると思っています。

 

最後に、大元さんは「神山フードスタディーズ?」として、神山で展開されているものごとをまとめてくださいました。勉強会のキックオフで後藤町長が話されていた「食物は体に入れるもの」という話、食農教育で大事にしたい「ものごとの成り立ちがわかる」という話、さらに白桃茂の「答えがないことをやっていく時代に対処の仕方や応用力を勉強するといい」などの話。そのなかでもガツンと印象に残ったのは、大元さんの「産業の中で唯一、食・農産業だけが体に入れるものをつくっている」という言葉。当たり前すぎることですが、言葉で聞くと…すごいことだと改めて感じました。そう、人の体に入るものをつくる産業が、農業。だから、すべての人に関係している。もっと一緒に考えていきたいです、農業のこと。

より詳しい大元さんのお話は「ローカル認証―地域が創る流通の仕組み」でお読みいただけます。

勉強会は、第2部 石川初さんのお話へつづきます。

 


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2022年4月の食農教育NPO立ち上げに向けて、全3回の勉強会を開催します。目的は、NPOの立ち上げについてみなさんに知ってもらうことと、参加者のみなさんからも期待や課題感を聞かせてもらうこと。そして、NPOが目指すこれからの「食農教育」について一緒に学び、考えていく場を持つことです。

>>> 勉強会の詳細・アーカイブはこちらより

この日誌を書いた人

樋口明日香

NPO法人まちの食農教育
樋口明日香 (ひぐち あすか)

前フードハブ 食育係。徳島市出身。神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年からフードハブに参画。2022年3月より現職。まちの小・中学校、高校、高専の食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる学校食」を模索中。 https://shokuno-edu.org/

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