神山のいいところを生かしたお菓子をつくりたい。

食べる

 こんにちは!かまパンの山田友美です。先月号でもお知らせしていましたが、アメリカで1ヶ月の研修期間を終え、無事帰国しました!

 ペストリーのリサーチ・現場研修の枠を超えて、私の人生観・価値観に変化をもたらせてくれた(もちろんいい意味です)1ヶ月の滞在でした。

 この研修の目的は、ペストリー部門を立ち上げるに当たって「焼き菓子・デザートのバリエーションを広げ、アイテムに幅を持たせること」「地域の素材とどう向きあっているか・どう活かしているかを知ること」でした。

 私はパティシエとして働いていた経歴があったことから、かまパンでパンを作りながら、かま屋で提供するデザートを作ったり、焼き菓子の開発に取り組んでいました。お菓子作りを進めていく中で、お客さんから良い反応をいただけたり、生産者さんにケーキや焼き菓子といった形に変えて素材をお返しすることができたときに、「お菓子作りのたのしさと奥深さ」をここ神山の素材に触れることで改めて感じたのです。

 神山では身近に素材があり、またおかし作りには欠かせない小麦もフードハブで栽培していたりと、生産者さんの手から直接おいしい素材が手に入る好条件が揃っています。そんな環境の中、焼き菓子やデザートを開発できるということは作り手として喜ばしいことなのですが、自分のもつ引き出しが少ないことでバリエーション豊かな商品開発ができず、「神山のいいところを生かしたおかし作りができていないのでは?」とモヤモヤしていました。そこで、インプットが必要なら研修に行ってみては?どうせならフードハブの思想の原点であるアメリカまで行った方がいいんじゃない?という提案があり、今回の研修に至りました。 

 特に私が素材と向き合うことになった研修先は、カリフォルニア・バークリーにあるシェ・パニースというレストラン。地産地食の考えを根底に、地元のオーガニック農家から仕入れた素材の持つ美味しさを生かし、その日のメニューを決めるということを40年以上も前から続けている場所です。ここを中心にサンフランシスコ・ベイエリアのレストランではこの精神が受け継がれているそうで、私たちフードハブもこのレストランから大きく影響を受けています。 

 ここのペストリーシェフであるえりこさんがパイプ役となり今回の研修を引き受けてくれました。5日間の研修期間で、主に素材の下処理をしました。この時期主に扱っていたのは柑橘とりんご。日本では見かけない品種のものがほとんどで、その日扱ったフルーツについて調べることもまた、私にとっては大切な作業でした。それぞれのフルーツは毎日状態が違うので、周りのスタッフたちは常に素材の味見をこまめにしていました。また、ここでは提供するデザートプレートの試食を毎日2回行います。この時間は皆で作業の手を止め、その日お客様に出す状態のものを味見していました。えりこさんに尋ねると同じレシピでも素材の状態が変わると全く違う仕上がりになるとおっしゃっていて、完成したものを共有することで素材をどう扱うか意見交換していました。

 レシピは本当にシンプルな、素材の味を生かしたものが多いのですが、それぞれのフルーツの皮の部分まで丁寧に手を加えて(柑橘の皮の砂糖漬けを作るのに、皮を12回以上茹でこぼす作業を繰り返したり、りんごの皮を煮てソースを作ったり)最大限に素材の味を引き出す作業を惜しまず、真摯に向き合う人たちの姿を見ながら、同じ環境の中で自分も素材ととことん向き合う時間をいただけたことは私にとって大きな収穫となりました。

  また、今回のどの研修先にも言えることでとても印象に残ったのは「数日間しかいない研修生に対して、雑な扱いが一切無く親切で丁寧な対応だった」ということです。1週間現場に入ったサンフランシスコのネイバーベイクハウスにしてもそうでしたが、彼らにとっての私はあくまでもいずれ去っていく存在です。そんな私に対して「来てくれて本当に嬉しい!わからないことは何でも聞いてもらっていいよ!レシピも教えるから!」と、常にオープンな態度で接してくれることに対して感謝しつつも、どうしてこんなに受け入れてくれるんだろう?と疑問に思っていました。

 現地で働く日本人の方にその話をした時、「それは、彼らが自分たちの仕事に誇りを持っていて、その精神に共感し、一緒に働きたいと足を運んでくれていることに対して敬意を払っているからだと思う」とおっしゃっていました。彼らのプロ精神が根底にあっての行動だということと、自分は果たしてフードハブで同じことができているだろうか、と気付かされた一言でした。

 1ヶ月間、毎日が本当に尊く、刺激も収穫も多い日々でした。

 何かのレシピを習得した、というよりは、つくり手としての素材との向き合い方や、仕事に対する姿勢など、本質的な部分を改めて感じ・考えさせられた貴重な研修期間でした。

 神山に帰って来て思うのは、この恵まれた環境を自分たちがどう生かすかが一番大切だということです。素材が身近にあり、生産者さんと直に関係性を持てるということに感謝しつつ、つくり手の私たちは素材が育つこの土地のことや、素材の味を引き出す方法をもっと掘り下げて知っていく必要があると感じています。それを踏まえた上で、みなさまに神山の素材の美味しさを感じてもらえるようなお菓子を作っていきたいと思っています。

この日誌を書いた人

山田友美

おやつ係
山田友美 (やまちゃん)

その他の活動

前へ次へ 閉じる