ふるさとの味になる。それはどんなクロワッサン?

塩見(奥)と笹川(かまパン製造責任者)
塩見(奥)と笹川(かまパン製造責任者)

こんにちは、塩見聡史と申します。表題の『クロワッサン』の話の前に、簡単に自己紹介をさせてください。

約3年前、フードハブ立ち上げの時にかまパンの商品開発担当として半年の間、東京と神山を行き来していました。私は小さい頃から川と魚が好きなので、神山の川がきれいなことと、その川の名前に“鮎”が入っていることに興奮したのを覚えています。

神山へ初めて訪れた日、この土地で70年以上種を継いできた麦があることを知りました。この麦はもちろんパン用ではなく、味噌や醤油、蕎麦のつなぎ用につくられてきたそう。そのような麦はグルテンができにくいため、パン作りには適していませんが、その分味わいは濃く、案外いいパンが焼けるかもしれないと思い、試作を繰り返しながら出来上がったのが今のかまパンの原型です。その後、パン製造責任者の笹川さんとおやつ係の山ちゃんが絶えずブラッシュアップして、皆さんに喜んでいただけるようなパンになっています。

さて、今回の私のミッションは『地元にないクロワッサンを作る』こと。町内のコンビニやスーパーで、袋に入ったクロワッサンは今でも購入できますが、生地から作る、ましてや焼き立てのクロワッサンは〝地元〟では手に入りません。そういう状況なので、どんなクロワッサンを着地点にするか、かなり悩みました。町の人にとっては人生で初めてのクロワッサンになるかも知れないし、ふるさとの味になるかもしれない。それはどんなクロワッサンであるべきなのか。

かまパンメンバーはもちろん、他のチームメンバーや、顔見知りのお客さんに試作品を食べてもらい、なるべく多くの人の意見をもらいました。その結果、神山小麦を軸とすることに。地元の粉だけで作ったクロワッサンは日本中探してもほとんど見つからないので、大阪や東京のお客様にも、神山小麦やかまパン、ひいてはフードハブの活動について知っていただく良い機会になると考えました。また、神山小麦を使うことの他に〝熟成する〟クロワッサンであることがもう一つのテーマでした。多くのクロワッサンやパイは、焼いた当日が賞味期限とされます。しかし、かまパンのクロワッサンは、遠方のお客様にもその魅力が届くものにしたいので、次の日、そのまた次の日も美味しく食べられる必要があります。以前働いていたパン屋のクロワッサンは、焼いて3日目になるとチーズのような風味に変わっていたことを思い出しました。おそらく全粒粉とバター、そして自家培養発酵種が合わさり、時間をかけて熟成することでそういった味の変化が起こっていたのではないか。かまパンのクロワッサンでも表現できるはずだと考えました。

東京で事前に試作を始めていたこともあり、一応の形になるまではスムーズにいきましたが、〝熟成する〟というところがもう一歩うまく表現できずに、滞在期間の1週間を迎えてしまいました。結論として、まずは自分たちの良いと思う神山小麦100%のクロワッサンを大小2種類のサイズで販売することに。私の仕事としてのクロワッサン開発はここでひと区切りですが、商品としてはこれがスタートです。こうして記事を書いている間にも、神山から今日焼いたクロワッサンの写真が送られてきます。毎日現場でお客様とクロワッサンの声を聞きながら、ベーカリーチームが神山のクロワッサンへ育ててくれると思います。

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