2021年11月14日(日)
食農教育をそだてる勉強会 レポートNo.04
「神山校〝まめのくぼ〟のフィールドから」池田勝彦さん/梅田學さん
こんにちは。フードハブ・プロジェクト 樋口です。
フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)では、2022年4月の食農教育NPO立ち上げに向けて、全3回の勉強会を開催しました。その様子をお伝えしていきます。
9月6日に開催した第1回では、鳥取大学の大元鈴子さんと慶應義塾大学の石川初先生をお招きし、お話を伺いました。
第1部/大元鈴子さん「〝フードスタディーズ〟ってなに?」
第2部/石川 初さん「神山の農と食をめぐって」
▶︎ 第3部/池田勝彦教頭・梅田学さん「城西高校神山校〝まめのくぼ〟のフィールドから」
今回は第3部のレポートです。
第3部 〝まめのくぼ〟のフィールドから
神山町の中の学校の最終教育機関が農業高校である城西高校神山校では、2016年から学科改編に向けた勉強会が始まりました。フードハブ・プロジェクトからは真鍋、白桃、樋口が参加し、食農プロデュースコースのカリキュラムの検討や、授業連携が始まりました。2018年からは樋口が社会人講師として授業に入るようになり、小麦の栽培から製粉、調理実習などの授業にもフードハブのメンバーらが関わっています。
2019年には学科が改正され、県外生の受け入れも始まりました。同年、文科省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(地域魅力型)」を受け、研究開発の一つとして「地域の生産・交流拠点」としての荒廃農地の活用や学校のシードバンク機能を位置付けています。
それらのフィールドとしてお借りした場所が〝まめのくぼ〟という谷地区にある圃場です。そこで展開される取り組みについて、梅田さん(神山校社会人講師)と池田先生(神山校教頭)からお話しいただきました。
梅田)3年前に神山に移住し、保小中高校生・大学生がまちと接する機会をつくっています。神山校では1・2年生の「神山創造学」を担当しています。
池田)神山校教頭の池田です。今、神山校で教えている科目がグリーンライフ、森林科学、農業機械です。専門は作物、野菜、畜産。食べることが大好きです。
神山校の生徒は現在87名。学科は地域創生類、2・3年生で環境デザインコース、食農プロデュースコースにわかれます。徳島県で唯一、農業単独の学科の高校です。
学校設定科目として2017年から実施されている「神山創造学」は実社会から学ぶことを基本姿勢とし、町全体をフィールドに、年代も仕事も様々な人たちと出会い、関わるなかで社会の現状や課題を学んでいく授業です。
梅田)「神山創造学」2年生のコースプロジェクトでは、休耕地だった〝まめのくぼ〟をフィールドに、環境デザインコースでは里山の景観について、食農プロデュースコースでは6次産業化の流れを学ぶ内容になっています。〝まめのくぼ〟という土地は、地元の方にとっては思い入れのある場所だったようです。
神山つなプロ #27 より、昔の〝まめのくぼ〟を知る高橋啓(はじめ)さんの言葉を紹介しました。詳細は映像をご覧ください。
〝まめのくぼ〟のこれまでの活動を紹介します。
池田)ススキやセイタカアワダチソウ、茅が生い茂っているところから始まりました。主に造園土木科(改編前の学科/現 環境デザインコース)の生徒が中心になり、草刈機を運んで整備を始めました。初年度は町の農業委員会の方々にも重機で耕してもらいました。
石川)なんとなく覚えていますね、この風景。
池田)現在のまめのくぼです。柵が立って牧場のように、のどかな良い場所になっています。
池田)杉の丸太は3年生が実習林から切り出して、穴を掘って立てています。竹は町内の竹林から調達しました。
池田)小麦の種は前年度収穫して残しておいたものを播種しています。代々つないで残していこうとしています。
池田)「麦踏み」は生徒にとって衝撃だったようで「なんで踏むん?」て。踏むと麦の穂がたくさん出てくるし、強い麦になります。数ヶ月後の生育の様子を見ると差が出ていたので、生徒も納得しました。
池田)種をまいて世話をしたものが収穫できると、喜びを感じていたように思います。今年は150kg収穫できました。50kgは KAMIYAMA BEER (神山町内にあるブリュワリー)へ卸して、70kgをかまパンへ卸しました。
梅田)生徒たちはビールは飲めませんが、生徒たちと KAMIYAMA BEERに見学に行く予定です。
池田)神山校では加工・販売までできる施設がないので、施設のある城西高校本校の食品科学科(徳島市)で、神山小麦を使ったクッキーを試作してもらい、オンラインで意見交換しながら改良を続けているところです。神山校でもタルトやクッキーを生徒たちが試作し、小麦をおいしく食べてもらうレシピの制作を進めています。
小麦の栽培に取り組んでいるのは食農プロデュースコースの生徒たち。一方、環境デザインコースの生徒たちは同じ場所で石積みに取り組んでいます。
池田)環境デザインコースの生徒たちは、石積み学校の金子さんからレクチャーを受けて、この場所で実際に石を積んでいます。
センパイが石を積み、下級生たちがその続きで石を積み、範囲が広がっているところです。向かい側にある杉林にも手を入れるのだとか。圃場とその周辺環境の整備はこれからも続いていきます。
真鍋)ここまでの話を聞いて、どうでしょうか。
石川)素晴らしい。風景が一変してるのは、すごく印象的です。石積みって残るんですね。長く使われていた土地の形が再びあらわれてくるのは、絵画を修復するよう。そのプロセスがすごくいいですね。土地のもともとの姿、取り戻されていく様子にうたれました。「谷」は斜面がすごく急なのに、反対側が平たくなっていて、かわいらしい土地です。ここに「まめのくぼ」とネーミングした人のセンスがいい。
大元)実はまめのくぼに今日連れていってもらいました。上から見ると、高校生が活動する場所だけぽっかりときれいになっていて。これはかなり大変だっただろうなと思います。そもそもどうしてあそこで小麦を栽培しようと思われたのですか?
樋口)3年前、高校の学科改正の時に町から「町の高校に期待すること」が神山校へ伝えられました。地域性種苗が年々減ってきている、継いでいる人も少なくなってきている状況。町として地域種苗の保管を町の農業高校が担うことへの期待がありました。
すぐにスタディツアーを企画し、先生以外に、フードハブのメンバー、役場の農業担当の方も一緒に、種をつなぐ活動をしている学校、レストラン、団体の方の元へ伺いました。
帰ってきて、神山でどうして行くかを考えたときに、ちょうど〝まめのくぼ〟をお借りできることになりました。「地域の種をつなぐ」農産物を育てるのであれば、すでにフードハブが栽培を始めていた神山小麦であればうまくいきそう、パン屋もあるし町内で使い道がある、ということで小麦から栽培を始めました。昨年からは蕎麦の栽培も始まりました。「同じく地域の種をつないでいけるものがいいのでは」と先生から声が上がり、地域の方にご協力いただき、種を分けてもらい、栽培しています。
真鍋)ちなみに昨年、フードハブの小麦、大失敗しました。神山校で種をつないでいたのでそれをいただいて。バックアップを取れていたので本当に助かった。
石川)農地、維持管理はそこにエネルギーを投入し続けないといけないわけですよね。規模的にはどうですか。今より大きくなると大変ですか。
池田)これ以上大きくなると、かなり大変です。でも、いろんなことをやってみたいと声は出ています。「東屋を作って、地域の人が集まってくれる場所にしたい」という生徒もいます。
大元)日本の食をつないでいる場所に高校生がいることはいいですね。地域資源である神山小麦は、昔は味噌や醤油にして各家庭が使っていたのでしょうが、今ではパンやお菓子にすることが価値となっている。将来の価値がないと小麦自体がなくなっていく可能性もある。ビールは進行形の価値だと思います。フードスタディーズの視点からいうと、種が繋がっていることはすごくいいと思う。
真鍋)フードスタディーズの観点で、過去・現在・未来の視点から学ぶ意義は大きい。
大元)すでにやっていることを生徒さんたちがわかりやすく理解できるといいなと思います。「耕作放棄地」という言葉は所有者によってはすごく複雑な気持ちになる言葉。放棄はしていない、でもキャパシティとしてはできなくなってるんだよ、という感じ。
石川)生徒がそれを担っているのはいろんな意味でいいですね。
石川)単に教育だけじゃなくて、実技を伴っているところが農業高校ならでは。役に立つというか。
真鍋)フードハブで種つぎまでやれるかというと、今の農業のスタイルだと難しい。それを高校と連携しながらでき始めているのはすごく嬉しい。
大元)自分たちが失敗したらあの会社の種がなくなる…みたいに(笑)
石川)神山小麦みたいなローカルの品種、そこで維持されているもので人知れずなくなっていくものも結構ある。急務ですね。
樋口)生徒が別の授業(チームプロジェクト)で、地域の種を自分たちで集めて栽培して保管したいって。地域の人たちに電話かけて調べてましたね。10数種類、種取りを目的に育てていました。
梅田)「まめのくぼで育てる野菜と、校内で育てる野菜の違いを調べたい」という生徒も出てきました。ここを起点に面白く、いろんなことを考える人が出てきていることを感じています。
真鍋)引き続き、石川先生と大元先生にも関わっていただきつつ、フードスタディーズもやっていけたらと思っています。
〝まめのくぼ〟は、まちの中で高校生が活動する実践フィールド。同じ状況は二度とない、生きた学びが日々展開されています。
まめのくぼを起点にどんどん展開されていくプロジェクトを、大人側はどのようにサポートしていけるとよいのか。こたえのないものごとに生徒たちと一緒に向かっていく日々はこれからも続きます。