食農教育をそだてる勉強会 レポートNo.08
子どもの好奇心と探究心を育む〝食農メディア〟

食育

こんにちは。フードハブ・プロジェクト 樋口です。

フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)では、2022年4月の食農教育NPO立ち上げに向けて、全3回の勉強会を開催しました。今回は第3回の振り返りレポートです。ゲストは、農文協「うかたま」編集長の中村安里さんと、みつかる+わかる代表理事の市川力さん。そして、後半は神山校の高校生たちも登場し、賑やかな回となりました。

市川力さん(写真中央左)・中村安里さん(同中央右)

恥ずかしながら、農文協が発行していた『食農教育』を知ったのは、NPOの立ち上げに向けてリサーチしていた昨年のこと。子ども向け農業雑誌『のらのら』の前身が『食農教育』という雑誌だったのです。『のらのら』は2017年に休刊になりましたが、今回神山で『のらのら』に関するお話が伺えることになり、とてもうれしく思っています。これからNPOでつくる『食農だより』のイメージを膨らませるべく、中村さん(現在は『うかたま』編集長)にたっぷりとお話を聞かせてもらいました。

中村)中村です。よろしくお願いします。農山漁村文化協会(以下 農文協)に勤めています。農文協に入社すると、雑誌『現代農業』を全国の農家に売り歩くのが最初の仕事です。わたしも1年目はスーパーカブに乗って、地方の農村をまわり、『現代農業』の営業をしながら農家が困っていることなど生の声を聞いていました。
今日は、農文協と教育分野との関わりについてお話させてもらいます。

『自然教育活動』から『食農教育』、そして『のらのら』へ

中村)1960〜70年代は、受験戦争が激化し、その反動で学校が荒れてきた時代です。80年代になり、それまでの詰め込み型教育を転換し、思考力を育てる経験重視の教育を目指して始まったのがいわゆる「ゆとり教育」でした。田植えや稲刈り体験といった農村での体験学習が全国に広がったのもその頃です。都市化や工業化の進展にともなって、農業・農村がかけがえのない教育環境になってきたことが指摘され、農業・農村が人間社会に果たしてきた役割があらためて見直されたのです。

農文協では1986年に雑誌『自然教育活動』の発刊を開始、1998年には総合的な学習の時間が始まるのに合わせて、学校の先生と農家に向けて雑誌『食農教育』を発刊しました。

2000年代になると、今度は、ゆとり教育の見直しが始まりました。総合的な学習の時間は削減され、2010年以降は「脱ゆとり」などといわれるようになります。

私は2008年から『食農教育』の編集に関わるようになり、学校菜園などに熱心に取り組む先生にもたくさん出会いました。ただ、さまざまな社会情勢も関係して学校のなかに入りづらくなったこともあり、先生に向けて『食農教育』の情報誌を発信し続けることの意味を考えることになりました。

その頃、『現代農業』の営業部隊から聞く、「農業好きな子ども」に注目するようになりました。村をまわっていると、「うちの孫は小学生でトラクターに乗ってる」とか「地下足袋を履いてマイ鍬で畑を耕してる」とかいういう話をけっこう聞くのです。直接電話して話を聞くと、みんなとても無邪気に農業を楽しんでいて。農業には、子どもを夢中にさせるものがあるとあらためて思いました。それから、学校や先生経由ではなくて、子どもに直接、農の楽しさを伝える雑誌をつくれないかと検討を重ね、『食農教育』を改題・リニューアルし、『のらのら』が誕生しました。

主人公は子ども!

中村)『のらのら』を発刊したころは、農業が好きな子どもを見つけて紹介し、その子がやってることを記事にする感じでした。そのうち、少しずつこちらから仕掛けるようになって。例えば「種交換掲示板」。まず最初に、取材で出会ったり読者はがきをくれた子どもにアンケートをして、「誰かにあげたい種を持っていますか」「欲しい種はありますか」って聞いたんですよ。

中村)そうしたら、どんどん集まって。これは面白そうと記事にしたら、今度は大人の読者が「大人ですけど仲間に入れてください」と書いて送ってくる。「世界一辛い唐辛子」とか「虹色の実がなるポップコーン」とか。子どもは、通学路や野山で拾ったタネを送ってくる子も多かったですね。だけど、タネ交換では大人は子どものちょっと先輩という存在で、あくまでも平等な関係でした。教える、教えられるの関係はなかった。知らないうちに、静岡のおばあちゃんと奄美大島の小学生の文通が始まったりしていて。育てる、タネをとるという営みは、子どもも大人も関係なく感動したり楽しんだりできるものだなと思いました。

読者からのハガキをもとに企画をつくるようにもなりました。
あるとき「牛乳が好きだからホルスタインが飼いたい」というハガキが届いたんです。これを、無理!と笑わないで、本気で答えてみようと考えました。ホルスタインは1日20〜30L以上ミルクが出るので、朝8時に出て3時に帰ってくる小学生には世話ができないし、そんなに飲みきれない…でも、ジャージー牛なら乳量はホルスタインほど多くないし体も小さい。粗食で暑さにも強い。餌はどうするか、どのくらいの広さがあればいいかなども記事にして、その後、「家畜が飼いたい」という連載シリーズが生まれました。

https://www.ruralnet.or.jp/syokunou/201503/04.pdf

子どもにわかる「形象化」

中村)もう一つは、野菜の育ち方を形象化するという話です。
例えばトマトの「わき芽」。栽培するときは「わき芽を摘む」という言葉がよく出てきますね。『のらのら』では、わき芽をわかりやすく解説するために、わき芽の気持ちになって考えました。

植物は成長するとき、先端の芽の両脇に時間差で新しい芽ができます。先に出たほうを兄、後から出てきたのを弟とします。兄は先に出て「主茎」になりますが、弟は後から出るので「わき芽」になる。そして摘まれるのです。兄と同じポテンシャルがあるのに!と、悲しくなっちゃいますが「そういう感情移入は人間としてのあなたの考え方で、植物にはどちらが優勢とかはない」と上司に言われ、植物の生きる意味や奥深さに気づいたりもしました。そんなふうに、野菜の立場に立った野菜の育ち方、という表現方法が生まれました。

毎日が楽しくなる〝世界の見え方〟の提案

樋口)『のらのら』の休刊を残念がっている読者はたくさんいると思います。

中村)『のらのら』でやってきたことを『うかたま』にも引き継いでいます。大人だって、その辺に生えた草を見て「食べられる」とか「染色ができる」とか、ちょっと知るだけでいつもの風景が変わります。読者からは「田舎に移住してあれをしたい、これをしたいと考えていたけど、今生きてる場所でも楽しく暮らせるんだなと思いました」というハガキが来て、とても嬉しかったです。道端のくさや公園の木を見て、名前を知り、使い道があると知るだけで、見える世界が変わり、世界が楽しくなります。楽しみは消費して得られるばかりじゃない。身近な自然を知り、自分の手でできることを増やすことが心豊かな暮らしにつながるはず。それを信じて、つくっています。

樋口)NPOでつくる『食農だより』は、子どもたちが「やってみたくなる」紙面作りをしていきたいと思っています。中村さんから具体的にアドバイスをいただければ。

中村)大人があつらえた環境に慣れちゃうと、子どもは何も考えられなくなると思います。こういうことをやってみたい!という子どもがいたら、不可能だと思っても全力で向き合う。あとはもう、教えるっていうより一緒に楽しむってことじゃないでしょうか。

市川)どこまで大人が本気で付き合えるかっていうところがすべて。それを『のらのら』で実現しようとしてたんだと思う。好奇心と探究心を育てたいんだったら食農教育をしなきゃダメだなと思ってやってきたので、歴史的な流れも含めて中村さんが解説してくれたことがとても腑に落ちた。
僕は『食農教育』の読者でしたけれど、食育や食農教育がしたかったわけではなくて、探究しようと思ったら子どもと一緒に土を触るところからスタートするのがいいと実感し、そのためのヒントがたくさん載っていたから。こんなにドンピシャでつながると思わなかった。

中村)よかった〜よかったですね。

市川)「食農」は「学びのコンテンツ」じゃない。食べたものが栄養になる、そこから体の仕組みを学ぶ。食べものを自分で作りたくなるし、調達しなきゃいけない。野菜ってどこで作られてるんだろう、種から作れるのかな、じゃあ『のらのら』読もうぜって。どんどん学びを発展させる「学びのメディア」なんです。

真鍋)このまま市川さんの話にいきましょう。

みつかる+わかる 学びのデザイン

わたしが初めて「ジェネレーター」という言葉を知ったのは『クリエイティブ・ラーニング』(慶應義塾大学出版会)を読んだときでした。子どもと共にいる大人のあり方としてとても惹かれたのです。「ジェネレーター」をweb検索していると「ジェネレーター入門講座」が開催されているとのこと!吸い寄せられるように講座に参加したのは2019年のことでした。その講座を主催されていたのが市川力さん(リキさん)でした。その場をとにかくおもしろがってつくっていく張本人。それがまさに「ジェネレーター」の在り方だとなんとなく理解しつつ、いつか神山にいるメンバーや先生方と、リキさんがつくるこの雰囲気を共有したい…!と願っていました。

リキ)公式な肩書きは「みつかる+わかる」の代表理事です。大人と子どもが一緒になって見えないなりゆきを追いかける学びを研究・実践しています。多様な人たちが持ち前の好奇心を発揮して共に成長する場を生む。そのために、食や農も扱ってきた。僕は、好奇心と探究心が育つには、なんとなく気になった何かをあてもなく「探索」することがベースにないと駄目だと思っていて。

学校教育は「探究」の方向に向かっている。総合的な学習あるいは中学校高校の総合的な探究の時間において、「課題設定→情報収集→整理分析→まとめ・表現」のスパイラルで探究は進むと学習指導要領に書かれています。でもこれは僕の言うところの探究の「究」の方なんです。でもその基盤に探究の「探」がないと進みませんちょっとした「あれ?」を大事にしてあちこち探索する過程を経て課題をみつけるフェイズが必要なのです。自分なりに探索して課題がみつかれば、やれなんて言わないのに勝手に追究しちゃうんです。

市川)神山校の授業を昨日見て、感動しました。石積みも小麦の選別も、神山校の生徒たちは自ら追究しようというフェーズに入っている。それはこの子たちは、毎日、野に出て、体を動かして探索するフェーズをずっと続けているからです。ただ探索は日々続けないとあっという間に感度が落ちてしまう。でも食と農をベースにする限り、探索なしの追究は不可能。さらに、神山は神山の置かれているコンテクストでやっているだけで、東京などの都会でも、そのコンテクストに合わせてできる。探究の本質に自ずとつながってしまうので、学校の先生が探究で困っていたら、まず食農から入ることをすすめたいですね。

真鍋)探究って、大人でできている人どれだけいるんだろう。市川さんはそこにどう寄り添ってるのか聞いてみたい。

市川)純粋に好奇心を持てるか、というところがカギだと思うんですよ。あと、一つの正解を追い求めようとしないと自覚できるかどうか。誰もが持っていながらフタをしている好奇心が開けば、『のらのら』読者や『うかたま』読者のように、そっちが楽しくなるからもう後戻りできない。しょうもないこと、ちょっとしたことからスタートしていいという雰囲気づくりが重要ですね。

神山校生 × リキさん
〝まめのくぼ〟に行って来ました!

ここからは、神山校の生徒4名と市川力さん(以下 リキさん)の時間です。
〝まめのくぼ〟は神山校から10分程度歩いた場所の呼び名です。休耕地となっていた場所を3年前にお借りし、現在は神山校の生徒たちの実習フィールドとなっています。

前日、リキさんと一緒にまめのくぼ周辺に探索に出かけた高校生。
フィール度ウォークの感想や、そこで見たものについて、4名の高校生とリキさんのやり取りが交わされました。

リキ)ちよみ、すなっち、きく、りの、よろしくお願いします。実は昨日、フィール度ウォーク(Feel度Walk)をやったんです。「フィール」って「感じる」。感じる度合い、つまりフィール度を上げるためには歩くといい。「食べられる草あるかしら」と見つけるのもいい。逆に、探さない、目的を持たない、なんとなく、とりあえず、集めてみるのもいい。

(…写真で雰囲気のみお伝えします…)

リキ)「なんとなく」を大事にしたらかえってなんでも気になって集中して見たっていうのは面白い。あてもなくどんどん林の方に進んで行ったのに知らないうちにまめのくぼに出ちゃったよね。

 

 

リキ)今日、前半の大人たちの話で印象に残ったことを聞いてみよう。

すなっち)今、神山創造学のチームプロジェクトで、フードロスのチームにいるんですけど、俺らは「探究」してたんだなって。

リキ)神山創造学でどんなことやってるの?

すなっち)フードロスの現状を知るために、町内の飲食店にアンケートをとった。町内では出ていないことに気づいて、そこからどうしようって。神山だけじゃなく徳島の高校生と何かできたらいいなあと思ってたけど。

ちよみ)学校の野菜の残ったものと地域のお店で出たロスをもらって、子ども食堂を町内でもう1ヶ所できたらいいなと思って。コロナでそれも消えてしまった。

すなっち)チームメンバーでもフードロスにめっちゃ関心がある人と、ちょっとだけ関心がある人は熱量が違う。熱量がある人だけが突っ走っても、チームとしてどうなのかって。自分の熱を抑えてやってた。

リキ)おそらくね、これって絶対起こってくること。

ちよみ)自分でテーマを選んでいるから…熱がないわけじゃなく、興味の持ち方が違う。方向性も違うし、それをどれだけ態度に口に出すかも違うし。

リキ)僕だったら、もう自分が突っ走って先にやるしかねぇって思う。だんだんこっちに来るやつがいたらそれで良くて。方向性の違いはどんな?

すなっち)俺はフードロスの問題を解決したい。

ちなみ)わたしもそこは変わらないけど、すなっちは企業とか、飲食・スーパーとか大きいお店が出してるロスに興味がある。わたしはどちらかというと家庭でいかに無駄なく減らせるかに興味がある。

リキ)こういう時、どうします?企業のフードロスと、家庭のフードロスをやるべきだってテーマが絞りきれない。ギクシャクしている。

きく)共通点と相違点をそれぞれ見つけ出して、その共通点は全員でやって、違うところはグループに分けてそれぞれやればいいんじゃないかな。

リキ)探索フェーズはあれこれ試行錯誤する中からみつかることだから、時間がかかる。最初からチームにならなくてもよくて、それぞれやってみる。どっちもやればいいよね。右往左往することがすごく重要だとまずは腹をくくる。

リキ)そのうち右往左往してられなくなって、とりあえずやってみようぜ!となる。何が生まれるかわからないからやってみることを面白がれる人がいると、だんだんチームがまとまってくる。僕はそういう存在を「ジェネレーター」と呼んでいるんだ。

 

 

リキ)もう時間だね。最後に一言ずつ今日の感想を。

りの)調べたものをそのまま写すのではなくて、自分がわかりやすいように、自分の形でまとめること。さらにそれを誰かに見てもらう機会を作るのがすごいなと思いました。

リキ)自分なりの言葉で記録し、まとめる時間を作ることが実は大事。探索する中で、何か引っかかるものが必ず出てくる。だから調べたくなっちゃう。そうすると自分の言葉でまとめるし、さらに他の人に見てもらいたくなって何らかの形で作品にする。発表した作品に文句を言われることも大事。ネガティブなフィードバックも「なるほど!」と受け止めちゃう。そこからまた創り出せるチャンスだと思ってね。これが探索と追究のフェイズでとっても大事なところ。

ちよみ)子どもの疑問に全力で答える、そういう大人が近くで一人思い浮かぶ。私らと同じ目線で遊んだり探したり一緒に探索してくれる人。なんでその人を好きなのかが言葉にできて嬉しい。

すなっち)相手に成果物を見せて文句を言われる(フィードバックをもらう)っていうのは、それに答えられなかったら恥ずかしいと思ってたんですけど、聞いてみるのも一つの手だなと思った。

リキ)この人は面白いフィードバックをくれそうだという相手を選ぶっていうのも結構大事だよ(笑)。

きく)みんなの話をよく聞いてみると、こんなことあったな、こういうこともあるよなみたいに、そこから考えとか思いが出てくる。そんなことを思える状態でおっちゃんと話せたのがすごく嬉しい(きくは小学生時代、リキさんが校長先生をしていた学校に通っていました)。

りの)昨日フィールドウォークでいろんな発見があって、それは多分、通学路とか、いつも何気なく見ている景色の中にもいろんな発見があるんだなと改めて感じたし、その発見を自分なりに、疑問を持って、興味がなくてもあってもまとめてみたい。

リキ)好奇心って、好きなことをやるんじゃないんですよ。興味があるとかないとか関係なく、好きじゃないけど気になる…これを好奇心と言うんですよ。まさにりのが言った通り。

 

勉強会終了後、高校生たちは中村さんやリキさんに話を聞きに。

 

 

「食農メディア」のイメージがどんどん膨らんできた第3回。
食や農への関わりをきっかけに、周辺の見え方が変わる、毎日がちょっと楽しくなる。それって、実生活とつながる学びですよね。そのような感性を育んでいく、その練習を繰り返していくことを「食農教育」で大切に扱っていきたいなと思います。

この日誌を書いた人

樋口明日香

NPO法人まちの食農教育
樋口明日香 (ひぐち あすか)

前フードハブ 食育係。徳島市出身。神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年からフードハブに参画。2022年3月より現職。まちの小・中学校、高校、高専の食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる学校食」を模索中。 https://shokuno-edu.org/

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