食農教育をそだてる勉強会 レポートNo.07
農と食をつなぐ〝参加型給食〟

食育

こんにちは。フードハブ・プロジェクト 樋口です。

フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)では、2022年4月の食農教育NPO立ち上げに向けて、全3回の勉強会を開催しました。今回は〝参加型給食〟をテーマに学んだ第2回の振り返りレポートです。ゲストには、ライターの甲斐かおりさん、神山まるごと高専(仮称)の伊藤直樹さん、松坂孝紀さんの3名をお迎えしました。

  1. 農と食と子どもたち(白桃茂・清水愛・樋口明日香)
  2. 地域における食の循環をどう実現する?(甲斐かおりさん)
  3. 高専と考える〝参加型給食〟(伊藤直樹さん・松坂孝紀さん)

進行:真鍋 太一(フードハブ・プロジェクト)

農と食と子どもたち

多くの方にとって「食べる(=食)」ことは身近なことですが、食べ物を「育てる(=農)」ことは遠いものごとになっています。ここでは、20年以上学習田で子どもたちの活動を見てきた農業指導長の白桃茂(しげ)と、かま屋料理長の清水愛(通称:もぐ)に「農と食をつなぐ」活動について話を聞きます。

聞き手:樋口 明日香(フードハブ・プロジェクト)

茂)神山町で田んぼと植木業をしています。20年以上、小学校5年生に向けた米作りの体験活動に関わってきました。最近は果樹園をつくっています。

もぐ)かま屋料理長の清水愛(めぐみ)です。「もぐ」と呼ばれています。食育の活動としては、小学生が育てた野菜を調理して提供するプログラムや、城西高校神山校の調理実習に関わってきました。

茂)子どもが「自分で作ったお米はおいしい」と話していて、同じお米なのにどういうことかなあと、いつも考えていました。分業化されている世の中で、お米がどのように食卓まで届くかは分かりづらくなっています。それを子どもたちに見せるのが、新しくできるNPOの役割だと思うんです。

真鍋)おじいちゃんおばあちゃんが農業をしていても、畑や田んぼに入ったことがない子どもはいる。近くに田んぼや畑があるから農業が身近かというと、実はそうでもない。教育現場で茂さんみたいな人と一緒にやれるのは、神山でも貴重な経験です。

茂)感受性の豊かなときの経験が一番大事だと思うんです。

樋口)茂さんは田んぼに加えて今は果樹園もつくっていますよね。子どもたちへの熱い思いをいつも聞いています。

茂)果樹園には、この土地に合いそうなもの、梅、すだち、キウイなどを植えています。地域の人たちに剪定を手伝ってもらったり、教えたり学んだりする場になったらいいかなと思って。

樋口)果樹園は神領小学校の前にあるので、同じ場所で大豆やサツマイモを育てたり、今は1年生が冬野菜を育てています。

茂)収穫するだけではなく、料理人のもぐがいて、調理しておいしくなる過程を見せられる。収穫と調理(変化)を楽しめる場所になったら、子どもも好き嫌いがなくなり、植物や生き物に対しての思いやりも出てくると思う。それには果樹園が一番いいと思って。

もぐ)子どもたちの活動に参加できることはすごく楽しいんです。育てた野菜をかま屋に持ってきてもらって、わたしたちが調理して、次の日子どもたちに食べてもらいました。素直に「おいしかった」と伝えてくれたり、残さずに食べる姿を見られるのは本当に嬉しい。

真鍋)給食もそんな感じでやれたらという話もある。

もぐ)今、かま屋で使っている野菜は、農家さんが朝収穫したものが届きます。野菜の味が力強くて、新鮮なうちに素材の味を生かした料理ができる。これまでは足し算の料理をしてきたけれど、神山では野菜をよりおいしく引き出す料理をジェロームさん(かま屋メニュー監修)に教えてもらいました。

樋口)子どもたちが自分で育てて自分でつくる経験は大事だけど、料理人の力を実感できる機会も非日常の貴重な体験。もぐがこれからやっていきたいことがあると聞きました。

もぐ)先日、モチモチした食感のトウモロコシ「もちなんば」をいただいたときに、こんな美味しいものがあるんだ…!と正直びっくりして。在来種や、残していきたい野菜が神山にはある。それを農家さんや高校生に育ててもらい、かま屋で提供できるといいなと。子どもたちにも食べて感じてもらいたいし、お客さんにも喜んでもらいたいです。

かま屋と違い、給食現場では毎日特定の子どもたちに向けて食事が提供されます。給食を通じて子どもやまちへの良い影響が期待できるとしたら、どんなことでしょうか。

地域における食の循環をどう実現する?

甲斐かおりさんには、域内循環を実践されている各地の取り組みをご紹介いただきました。

甲斐)ライターの甲斐です。私は普段、主に全国の、地域をフィールドに活動されている農家さんや飲食店、ゲストハウスなど自営業の方々を取材して記事にして寄稿したりWebに書いたり本にまとめたりしています。今日は、食や農をテーマにした事例をお話しできたらいいなと思います。

  1. 「漏れバケツ理論」
  2. 域内循環の考え方をもとにした町の政策(北海道下川町)
  3. 地産のものを地元の人に食べてもらう仕組み(スーパーキヌヤ)
  4. 幸福度調査で可視化する(高知県土佐町)

どれも大変興味深いお話でしたが、ここでは3と4について紹介します。

甲斐)島根県と山口県の一部でお店を持つキヌヤというスーパーがあります。21店舗を運営する年商150億円くらいの企業です。キヌヤは大手スーパーに太刀打ちする戦略として、ナショナルブランド(NB)やプライベートブランド(PB)だけでなく、ローカルブランド(LB)に力を入れて全売り上げの20%にしていこうという目標を掲げました。2010年当時はLBが全体の8%ぐらいだったらしいのですが、2020年の時点で18%まで伸びて、地元のメーカーさんや生産者の方たちと「LBクラブ」を設立してネットワークをつくり、目標に向けて取り組んでいます。
面白いのは、生鮮品だけでなく加工品なども、地元のもので置き換えられないかと発想して商品開発していることです。NBのお茶が売れていれば、同じような価格で地産のものを作ってみる。市場が見えているから、起業のチャンスになったり、地元の方たちの商品開発の強力な味方になっていて、まるで小さな地域商社みたいです。ただ、LBによって若干値段は高めになる傾向があるので、激安量販店ができた時は、一時期お客さんがそちらに流れてしまったと。でも、最終的には「LBがあるからこっちに戻ってきた」という声もあったそうなんです。

▶︎ 売上の2割、25億円の域内循環が地域力に。非常時だから考えたい地産率の上げ方

地産地消という言葉は耳触りはいいけれど、「なぜ地産のものを食べるのがいいのか」「それが自分たちの生活を変えていくんだ」というところまでは浸透していないのが現状です。
かま屋で毎日出している町産食材の割合「産食率」も、それがどのように自分の生活や町に影響しているのかは現時点でわかりづらい。関わってる人たちが共通で持てる認識、ビジュアルみたいなものも含めて、それが人の意識や行動変容まで浸透してくるには何が必要なんでしょうか。高知県土佐町で実施された幸福度調査についてお話しいただきました。

甲斐)まちのものを食べることが、なぜいいのかを数字で表した例として、高知県土佐町で行われた幸福度調査もその一つではないかと思いました。「どれぐらい読書をしますか」「どれぐらい地産のものを食べていますか」というような日常生活の行動と、実際に幸せと感じる・感じないを掛け合わせて調査した結果を見せてもらうと、結果がはっきり出ていたんです。町産のものを食べる頻度でいうと、毎日食べる人で幸福だと言った人が61%、月に数回の人で45%、週に数回の人が31%。ほぼ食べる機会がない人は29%、全くない人は23%。この数字を出したことで、「町産のものや自作のものを食べる方が幸せになる人が多いんですね、ほら」ってみんなで確認し合えるものになったことが一つ重要じゃないかなと思うんです。

▶︎ これ以上、情報はいらない。町の広報誌が雇用、売上、つながりを生む起点に

真鍋)フードハブとしては自分たちが食べたいからとことんやってるけど、それを町の人に共有できてるかっていうとまだまだ弱いところ。数値化してもう少し大きい視点で見ていくことは大事だと思っています。5年間やってきた食育も、今後教育で得られる成果を打ち出して共有していくことが必要。

伊藤)高専では、日本を変える、その人間の未来を変えるということをやっていきます。日本の経済はずっとデフレが続いていて、物が安い、給料も安いという悪循環。地域が痩せ細っている状況を変えないと、高専をつくる意味がないなと思っています。地域内循環というのは一つの答え。それを子どもたちがどう学んで、日本全国に散っていくか。そのシステムを作ればうまくいくかな、とヒントをもらいました。

高専と考える〝参加型給食〟

2023年の開校予定の神山まるごと高専(仮称)は何をどのように学ぶ学校なのか。そして全寮制で学ぶ子どもたちの食事はどうしていくのか。食・農における「地域内経済循環の仕組みづくり」はまさに現在進行形でフードハブ・プロジェクトが取り組んでいることですが、「給食」は未知の世界。より良いかたちを模索すべく、ここから高専のカリキュラムディレクターである伊藤直樹さんと、事務局長候補の松坂孝紀さんとの給食作戦会議が始まりました。

伊藤)2023年に開校予定の神山まるごと高専の伊藤です。高専ではカリキュラムの設計を担当しています。

松坂)事務局長になる予定の松坂です。神山に移住してきましたが、野菜がめちゃくちゃおいしいです、本当に。

伊藤)神山まるごと高専(仮称)は、テクノロジーとデザインで人間の未来を変える学校。モノをつくる力を基盤にコトを起こす人を育てます。プログラミング、デザイン、起業家精神、この3つをセットで学び、言葉、数字、絵、プログラミングが強くなることを前提に教えます。起業家精神をもった人、デザイナー、エンジニアが相互に理解し合える、そのための一つの枠組みを高専で学べるようにと考えています。

15歳から20歳までの5年間、神山で暮らし、学ぶ子どもたち。1日3回の食事はとても大事なポイントです。環境省の調査によると、学校給食における食品ロスの内訳として多いのが食べ残しで、全体の4割を占めるそう。子どもたちの嫌いな食べ物ベスト3が野菜料理、サラダ、魚…(野菜、不人気。)。地産地食率日本一の食事…神山では自ずと野菜が多くなりますが、フードハブや食農NPOはどんなふうに関わってゆけるとよいのでしょうか。

真鍋)多くの場合、おいしくない野菜を食べて野菜嫌いになっていることが多い。旬のおいしい野菜を提供することがまず大事なポイントだと思います。あと、自分で育てた野菜は残さず食べるんですよ。如実に好き嫌いは減っていきます。調理する人の技術もありますね。かま屋では料理人が真ん中にいる。料理人がつくることは、地域で活動する上での重要なポイントになっています。

松坂)わたしは子ども時代、給食の野菜サラダが駄目だったけれど、大学生の時にレストランで出てきたサラダはおいしかったんですよ。つくる人の顔がわかる、見えることで食べものに対するイメージも変わってくるのかもしれませんね。

樋口)子どもたちは、畑で土から出たばかりの野菜をむしゃむしゃ食べます。それを見て先生もびっくりする。野菜を食べることへの垣根がなくなる感じはあります。子どもたちが育てるプロセスに関わる経験は大事にしたいです。

真鍋)高専の生徒たちが毎日通る道に畑があるとか、日常的に畑に触れる環境をつくるのはすごく大事なのかも。

伊藤)甲斐さんの話で言うと、地域内循環させていくために少し高いものでも手を伸ばして買う、それが雇用を生んだり幸福のウェルビーイングをあげたりするわけですよね。子どもたちが教育を受けて、地産地食が大事だと学んで、全国に帰って、その意識を持って日本を変えていくことは重要だと思います。

おいしい食材の生産、料理人の力を借りた調理、農を身近にする食農教育の実践。それらを通して個々の「おいしい」実感を蓄えていく。まちのなかで生産、流通、調理、教育を一緒に推し進めていくことができたなら、地産地食率の高い学校給食は実現できていく…実現したいなと思います。

伊藤)カリキュラム全体からみると、食農教育ってちょっと異色だと思うんですよね。高専で食農教育をやる意味があるとしたら、どんなことでしょう。

甲斐)野菜や米づくりを身近に知るだけでも、びっくりするぐらい今まで自分が知らなかったことを知ります。植物が種から芽を出して、育って、実をいただいて、またそれが土に返って。生き物のベースのシステムを頭じゃなくて肌で感じることができる。それはある意味で合理的でもあるからテクノロジーを学ぶ人にとっては、逆に親和性があるような気がします。

伊藤)生き物のシステムを教科書で学ぼうとするとむちゃくちゃ眠い(笑)。でも実際にやってみると、土の中に一つの生態系があることがわかったり、例えば植物を食べる虫もいっぱいいて無農薬栽培の難しさを知ったり、地球のこともリアルにわかると思うんですよね。

茂)今、自分中心に考える人が多いけど、栽培を通して自分以外のことも考える体験をするのが大事かもしれない。

真鍋)食農教育の役割は、挫折する経験かもしれない。デザインやプログラミングはなんとか形になるけど、米や野菜を育てることは、自分だけではできない。自然との兼ね合いを学んだり、本当に得意な人(農家)にやってもらったりしないと。ごはんのありがたさもわかる。

伊藤)〝成功体験も失敗体験もまるごと〟っていうのが高専の一つのコンセプト。

松坂)一番身近なプロダクトである「食」は自分たちだけでは作れない。そして、食材を誰が作っているかを知らないことが結構衝撃だと思うんですよね。

茂)農業体験しながら、いろいろな方向から見える人が、今の時代に必要なんですよ。

伊藤)高専の農業部門の活動、茂さん、見ていただけますか。

茂)僕でできることなら。

伊藤)20年以上教えてきた経験で、子どもたちに向き合っていただけると嬉しいです。

生徒たちはもちろん、先生方とも「農体験」できるといいなと思います…!!
つづく。


甲斐かおりさん https://news.yahoo.co.jp/byline/kaikaori
神山まるごと高専(仮称)  https://kamiyama-marugoto.com/

この日誌を書いた人

樋口明日香

NPO法人まちの食農教育
樋口明日香 (ひぐち あすか)

前フードハブ 食育係。徳島市出身。神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年からフードハブに参画。2022年3月より現職。まちの小・中学校、高校、高専の食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる学校食」を模索中。 https://shokuno-edu.org/

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