食農教育をそだてる勉強会 レポートNo.03
石川初さん「神山の農風景をめぐって」

食育

こんにちは。フードハブ・プロジェクト 樋口です。

フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)では、2022年4月の食農教育NPO立ち上げに向けて、全3回の勉強会を開催しました。

9月6日に開催した第1回では、鳥取大学の大元鈴子さんと慶應義塾大学の石川初先生をお招きして〝フードスタディーズ〟や神山の農風景についてお話を伺い、後半は町の農業高校・神山校の取り組みを紹介しました。

第1部 大元鈴子さん「〝フードスタディーズ〟ってなに?」
▶︎ 第2部 石川 初さん「神山の農風景をめぐって」
第3部 池田勝彦教頭・梅田学さん「城西高校神山校〝まめのくぼ〟のフィールドから」

今回は、第2部のレポートです。

石川初さん「神山の農風景をめぐって」

第2部は、石川初さんのレクチャーです。

石川 初さん
(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科/環境情報学部 教授)

2016年から研究室の学生さんたちと神山を訪れ、『神山暮らしの風景図鑑』、絵本『かみやまでいきること/これまでの千年 これから千年』などの成果物が生まれています。今年度は「食」をテーマに神山のフィールドで調査・研究を行う予定です。

石川初さん(写真:中央下)

冒頭ではご自身が通われていた基督教独立学園高等学校 で得た「食育」経験を話していただきました。山形県の山間地にある全寮制の高校は、息子さんも3年間通われていたとのこと(2代目が入学することはよくあるらしい)。その中から印象的だったお話を。

強い循環の中に自分がいることを感じてしまう経験

石川)独立学園は普通科の高校なんですが、田畑や家畜舎のある1学年25人の少人数全寮制です。起床して、掃除や作業をして、自分たちで炊飯をして配膳をして、食べて、洗って、朝礼拝をしてから授業に向かう。学校が終わってから作業の時間があって、畜産部は畜産の世話をするし、園芸部は野菜づくりをして、米部は田んぼをやり、製パン部はパンを作る。学生たちが放課後草刈りをして帰ってくる風景が日常茶飯事です。夕食になるとまた炊事をして夕飯を食べる。今はほぼなくなったらしいけれど、私の時代はトイレが汲み取りだった。それを浄化槽みたいなところに移して、しばらくすると畑にまく。普通にやってたんですよ。排泄から熟成して施肥…ぐるっと一周する中に自分がいる。思っていたよりも強い循環の中に自分がいることを感じてしまう経験です。山の森林が寮に近くて、牛と虫と人が混じり合っていて共にいると実感するような3年間でした。家畜を屠殺に出すこともあって、牛がトラックに乗りたがらずに涙を流して泣いているのを見たこともあります。生徒はショックを受けるのですが、そうやって「食べること」に関する切実な経験を色々とするわけです。「食事」で終わりではないという。10代の頃にここで得た農と食の経験は、私も含めて多くの生徒の人生に大きな影響を与えたと思います。それは自分たちが生物であるということを否応無しに感じてしまうということですね。自分の生というのは、より大きなネットワークの中に位置づけられているという世界観です。

神山の風景に関する調査・研究

石川初研究室は、2016年から 神山の風景に関する調査・研究を重ねてきました。石川先生は「次世代につなぐまちの資産」を考える中で、「風景」も次世代に継承したいまちの資産と捉えています。例えば「石積み」では、ありふれた素材を積む行為の継承、現場の技術、必要な時に必要なものをつくる文化に魅了されてきたそうです。これらは『暮らしの風景図鑑』にまとめられています。

最近では神山を道から見直すということに取り組んできました。名(みょう)という伝統的な経路が残っている集落の道を分析したり、明治期の道と現在の道路の比較をしたりしながら、出会う人たち(夕暮れ時に散歩している方々)を「サンセットウォーカー」と呼び、そのルートを分析して『道の神山図鑑』や『歩く神山辞書』などの成果物が生まれています。2019年は3年間の調査が終わり、町内で展示会を開催しました。

昨年はコロナ禍で神山に来られず、学生さんらは『妄想神山図鑑』(石川先生曰く「神山の風景を思い出して勝手に想像してこじらせた図鑑」)を制作。

すだちについて調査していると、南北線(東京メトロ)のマークがすだちに見えたり、渋谷区の神山町を徳島の神山町だと思ってフィールドワークをしてみたり。これらは、神山を発見することでありながら、〝いろいろなフィールドを神山で見たように見直すトレーニング〟と石川先生は言います。

今年度の研究についても伺いました。

「農の風景図鑑」への研究

石川)食の風景は農の風景でもあって、農地が農地として見えるのはなぜだろう、菜園を菜園に見せてるのは何かということが議論になりました。農地を見歩いて農地を成り立たせている要素をみんなで抽出し、ラベル付けしていく分析をしました。

石川)農風景カードはかなりの数が集まっています。

石川)神山に限らず、SFCの周り、所沢、益子などの農地を見ながら、そこの農地性は何かを考えていて、今のところは、「テクスチュア」「地面のコンディション」「工作」「農のアイテム」という大きな括りで整理しています。

石川)「轍(わだち)があると農地だ」という人がいて、それはそうだよねとか。圃場整備したところは近接で見るとすごく土木的なんですけど、広域的に見るとそれなりに理にかなった風景に見えることがあって、その意味を結ぶスキームがあるという話です。
アイテムの話でいうと、「ラッピング」(巷ではマルチと呼んでいる)。これ、実はすごい農地に見えるんですよ。

石川)あとは「コンテナ」ですね。これがあるだけで全体で農地に見える。そして今我々が注目しているのが「まかない農地」。

石川)生産地としてのビシッとした農地の片隅にある、自家用と思しき菜園。多品種で少量生産。地面の状況に対して「作らなきゃいけない」という圧力がなく緩さが特徴。しかしながら明らかにハイレベルの技術でマネジメントされており(会場:笑)、プロが余力で実施しているよう。資材が間に合わせで、本当にまかないのご飯のよう。これを学生が「一人称のファーム」と呼んで(会場:笑)そりゃそうだと。明らかに「ひとりごと」なんですよ。(ちなみに、産業としての農地は三人称)

石川)神山の農風景はどこをとっても様々なものが入り込んでいる。すごく面白い。「食農の風景論」というものがあると思っていて、神山でそういうことを考えてみたいなと思っています。

石川さんのお話を聞いて

真鍋)ランドスケープや農風景を、解体してラベリングして因数分解していますよね。そういうことを学生たちが学ぶと、どんな影響や学びがあると思いますか?

石川)先入観が崩されていく。「畑」や「田舎」という一括りだったものへの解像度が上がっていく。そこはすごく効果的だと思います。それは農地に対してだけではなく、公園の設置や庭の設計をするときに、スタディしたもののボキャブラリーが入り込んできます。「手持ちのカードを増やしていく」ことが重要。ゼロから思いつくのはなかなか難しいけれど、観察の単位を小さく分けて考えていくと、手持ちのカードになる。思考のツールとして有用なやり方だと思っています。

真鍋)ランドスケープ問わず広い分野でも?

石川)そうです。あと「農」でおもしろいのは、対象だけで終わらず、それを支えているものに関して思いを馳せずにはいられないところがある。そこがいいですよね。

真鍋)教頭先生、どう聞かれました?

池田)僕はもう25年、農業の教員をしています。実際には農業の教科書には、今日の話みたいなものは載っていません。今日のような視点を変えた教え方ができれば、農業を好きになってくれる生徒が出てくる気がします。数年前から、「農業やってみたい」「生き物を育ててみたい」という意欲を持った子が入学しています。いろんな角度からみた農業を伝えていけると面白いなと思っています。

真鍋)神山校の生徒が「まかない農地で〜」とか話しているのはいいですよね〜。大元さん、どうですか?

大元)石川先生にお聞きしたいのですが、学生さんたちが自由にいろんな発想で喋れるようになるまでにどんな段階を経ていますか。基本の部分を教えていらっしゃると思うんですけど、今日のお話だけではその部分が見えてこなかったので…。

石川)基本的には一緒に驚いて喜んでるだけですが、基礎トレーニングはします。学生たちは、最初の年に「これまで鑑賞の対象として考えてこなかったものを愛でるための新しい鑑賞ガイドをつくってください」という課題に1学期間かけて取り組み、2週間に1度順番が回ってきて発表します。最初はウケを狙うんですけど、そのうち「ちゃんと鑑賞する」ガイドをつくるのに苦労する。そういう、ものの見方を養うトレーニングをすると、フィールドでおもしろいことを言い始めます。最初はこちらの期待に応えて良いことを言おうとするけれど、そうするとどっかで聞いたようなことしか出てこないから。

 

石川さんの高校時代の「食育」体験のお話は、今後食農NPOでも取り扱っていきたい「食環境」を考える上で考えさせられる内容でした。また、最後に話されていた「見方を養うトレーニング」ですが、いま、まさにNPOの立ち上げに向けて進めている自分自身の〝食農教育の見方〟においても言えることで。「手持ちのカード」を分類・整理しつつ、この先の道筋を描いていきたいと思います。石川先生のお話からは、それらを〝楽しく〟〝おもしろがって〟進めていくセンスをビシビシと受け取りました。学生のみなさんから遅れること数十年…遅咲きながら、私もトレーニングを重ねていきます…(!)

勉強会は、第3部  神山校の〝まめのくぼ〟を舞台にした話へつづきます。

 

石川初研究室についての詳細は下記サイトをご覧ください。
石川初研究室
石川初研究室「神山ひとまわり」

石川初さん 著書
「思考としてのランドスケープ 地上学への誘い-歩くこと、見つけること、育てること」

この日誌を書いた人

樋口明日香

食育係
樋口明日香 (ひぐち あすか)

食育係/白崎茶会認定パン先生。徳島市出身。 神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年に地元徳島に戻り、フードハブに出会う。保育園から高校までの子どもたちの食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる地産地食」を模索中。一番好きな食べものは、みそ汁。

その他の活動

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