くらしを耕す「エタノホ」で伝えたいこと
vol.2 「体験」の、その先へ

神山のこと

高校生たちが暮らす寮のハウスマスターでもある兼村雅彦さん(右)と寮生たち
高校生たちが暮らす寮のハウスマスターでもある兼村雅彦さん(右)と寮生たち

神山町の江田集落は、役場のある町の中心部から西に車で15分ほど走った場所にあります。毎年春になると棚田が菜の花の絨毯になり、観光客も多く訪れる場所。その江田集落で「エタノホ」の米づくりに励んでいるのが、植田彰弘さん(あっきー)、千寿美さん(ちずみ)、兼村雅彦さん(まさ)。

前回お話を伺ったのが5月。そのとき、あっきーがこんなことを話していました。

「米づくりがもっと身近になるといい。できることから始められる、背伸びせずに続けられる米づくり。それを通じて、暮らしのありがたみを共有できる仲間が増えていったらすごくうれしい。エタノホを通じてそういう輪が広がってほしい」

 

それぞれ仕事を持ちながら余暇時間で米づくりに励んでいる3人。彼らの「米づくりが身近になる」をもうちょい詳しく聞きたくて、8月中旬に3人のもとを訪ねました。

田植え(2020年6月)高校生や地域の人たちと。

—–「米づくりが身近になる」って部分、もう少し。

【ちずみ】震災やコロナ禍で、食べものの獲得に走る人の姿を目の当たりにした。「食」について考える機会が増えたと思う。だからといって、米づくりからやる人は少ない。そういう意味で、わたしたちは最先端(笑)!稲植えて水入れてたら、誰でも米づくりできるよ。

—–いやいやいやいや。そんな簡単じゃないよっ。「体験」は楽しい。でも、米づくりにはものすごい知識や情報が必要で、作り手が一つひとつ判断して実行して…の繰り返し。「これは自分には無理だぞ」って思わされた(※今年は小学生が田植えした田んぼの除草をやってみました→こちら)。

【ちずみ】きっちりやろうとするからかな。とりあえず、耕す、水入れる、植える。味はともかく、それでできるから。

【あっきー】最初はおいしくなかったもんね。

【ちずみ】収穫できんかったとしても、それはそれでいい勉強にはなると思う。

【あっきー】それに、人のつながりができるのはめっちゃいい。地域との距離が近くなるっていうか。

—–田んぼにいると、通りがかる人が「暑いけど毎日よー入っとんねぇ」とか「そろそろやねぇ」って。そこにいるだけで会話が生まれる「田んぼコミュニケーション」、あるよねぇ。

【あっきー】米づくりを経験してる町内の方が多いから、共有しやすいのもあるよね。
田植えや稲刈りの「体験」に来てくれるのはもちろんうれしいけど、まずは少量でも自分で育ててみるといい。自分たちで自分たちの米を食べる習慣が身近になったらと思って、「お米が身近になったらいい」って言ったんだよね。

—–「食育」をやっていて思うのは、日々口にする食べもののことなのにその背景(種から食卓に届くまでの過程)は知らないままで、知るきっかけがあまりにも少ないということ。自分もその一人。だから、やっぱり背景を知ってもらいたいっていう思いもあって。そこらへんはどう?

【まさ】今、エタノホのオンライン販売のページは作ってる。お米を売るだけではなくて、活動を伝えることによって、自然との接点とか、人とのつながりとか、もっと広まればいいなーとは思ってる。

—–自然との接点?

【まさ】例えば、“雨乞い踊り” を願った先人の気持ちに寄り添えるとか…。「雨降れー!!」って思うんですよ(笑)。自然と一緒にいる感覚というか。

【あっきー】雨のありがたみや自然の恵みを感じて、食べるお米の価値を知るっていうことは、米づくりを2、3年やらないとわからないかも。「食べる」ことから一歩進んで「つくる」側にならない限り、その先にある農地の問題とか米の自給率、諸問題の解決にはつながっていかないんじゃないかな。

—–「食べる」の先にある「つくる」か…。

【ちずみ】一緒に田植えした子どもが「これ、一緒に植えたお米だよー」っていうとすごい喜んで食べてくれる。そういうのはうれしいよなぁ。

【あっきー】そういうの大事だねー。

【ちずみ】すぐに「つくる」側にならなくても、「田植えしたことがある」とか「またやってみたい」とか、「体験」を通して関心をもつ人が少しずつでも増えたらいいなぁと思う。

米好きの千寿美さんの作るごはんはいつもおいしい◎ 田植えの日のまかないは蕎麦米汁(おかわりする人続出)。

【あっきー】小学校の食育の授業をやったあと、「もう1回やりたい」とか「心に残ってる」とか、そんな感想届いたりする?

—–「その後」知りたいんだよねー。わたしは授業中の反応しかわからない。その場で質問がバンバン出る学年もあるし、たまたま会った時に「稲どうなってますか!」って聞いてきた5年生もいた。体験することで食べ物が “気になる存在” になってるのはいいよね。

【まさ】子どもの頃は「楽しい」だけでやってたことも、大人になって「あー、そういうことか」って分かる瞬間がくることも。自分が、まさにそう。

人間版 代かき(しろかき)で大人も子どもも泥まみれ。カメラを構えるのは、あっきー。

—–子ども時代の「体験」って、原体験なわけで。
町内の5年生とやってるもち米作り、機械で刈るのと手で刈るのと両方体験して「どうだった?」って聞いたら「機械は速かったけど、手刈りの方が気持ちよかった」って言った子がいて。「刈った気持ちよさ」が上回ってる子どもの感覚、最高だなぁーと思って。

2019年の稲刈りの様子

【まさ】機械化が進んだ農業は、たとえ「体験」しても自分と直結しないじゃないですか。手を使う、手間をかけることは、シンプルに自分と直結する感じ。手を使うと「あと何本つかめる」とか「何セット分やった方が効率がいい」とか。考えながら手を動かすことは仕事のおもしろさにもつながる気がする。

【ちずみ】そういうことだと思う。鎌を一気に引くとスパッと切れるとか、砂場とは全然違う田んぼの感触とかは、自分のからだを使った「体験」からしかわからんもん。

【まさ】手を使って「体験」していれば、それが機械に変わってもできるでしょ。

—–そうそう、そう思う。今は家の中も…ルンバが掃除してくれる時代だし。ボタンを押せばやってくれるもんね。

【ちずみ】ボタンすら押さなくてよくなってる、「アレクサ!*」だもんねー。(※ Alexa :音声解析サービス)

—–そういう環境で育ってきた子たちが、これからの社会をつくっていくんだよね。そのうち、「アレクサ、米作って!」って言ったら最少の労力で米ができる未来がくるのかも…!!(笑)

【まさ】それもいいだろうけど(笑)、米づくりの基本は知っておいて欲しいかな。体感して理解してる子に、新しいものを作って欲しい。

【ちずみ】それこそ、テクノロジーとの融合…いい感じで噛み合う部分を見つけられるといいんかな。でも、小さい子どもたちは、「楽しく」が主でいいよね。

【まさ】神山でも自然と直結してる人たちが今は元気やから、子ども時代にその人たちや場所に触れられるかどうか。自然につながってる世界を知ってたら、大人になってもブレないで生活できそうな気がする。

機械を使って植えた田んぼ(2020年6月)…私がやらせてもらった箇所、うねってて残念…。

稲刈り(2020年9月)

手を使って稲刈りを体験した高校生たちと(2020年9月)

エタノホのメンバーが今年から借り受けた田んぼは、これまで90歳の方が一人で管理されていた田んぼと聞きました。まちの農業従事者の平均年齢は70歳を越えており、田んぼや畑の管理は大きな課題でもあります。「どうやったらつくる側になれる?」「どんなフォローがあればいい?」などなど、ここからさらに具体的な話へと…。

つづく

▶︎ 「エタノホ」の詳しい活動については こちら をご覧ください。

お知らせ

かま屋では、2020年10月14日〜18日までの5日間、ランチで「エタノホ」の新米が味わえます!あわせて、かまパン&ストアでも「エタノホ」の新米を販売。ぜひ、江田集落で育ったお米「エタノホ」を味わいに来てください。

▶︎ 知って、食べて、たがやそう 〜かま屋とストアで「エタノホ」収穫祭〜

この日誌を書いた人

樋口明日香

NPO法人まちの食農教育
樋口明日香 (ひぐち あすか)

前フードハブ 食育係。徳島市出身。神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年からフードハブに参画。2022年3月より現職。まちの小・中学校、高校、高専の食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる学校食」を模索中。 https://shokuno-edu.org/

その他の活動

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