くらしを耕す「エタノホ」で伝えたい“想い”
vol.1 関係性

神山のこと

写真左から植田彰弘さん(あっきー)、千寿美さん(ちずみ)、兼村雅彦さん(まさ)
写真左から植田彰弘さん(あっきー)、千寿美さん(ちずみ)、兼村雅彦さん(まさ)

神山町の江田集落は、役場のある町の中心部から西に車で15分ほど走った場所に位置します。毎年春になると棚田が菜の花の絨毯になり、観光客も多く訪れます。

「エタノホ」という名前で活動している植田彰(あっきー)さん、千寿美(ちずみ)さん、兼村雅彦(まさ)さんはその江田集落で米づくりを続ける主メンバー。今年は私も初めてエタノホの米づくりに参加させてもらい、畦づくりから一つひとつの“手間” を体感しているところです。楽しく感じられる田んぼの“素” はなんだろう?と思ったのと、仕事をしながら「エタノホ」の活動を続けている“想い”を知りたくて、先日、田植え後の3人に話を聞いてみました。

なぜ「エタノホ」って名前を?

【あっきー】最終的に、江田集落のお米でやっていきたいなと思ったので。無農薬だから、とか、僕らのプライベートブランド、とかじゃなくて、江田集落が認知されて、僕らのお米が少しでも売れて、地域の人が「お米、売れるかも」って期待をもつ、集落全体のブランドとして売っていけたらいいなと。
江田集落でつくったお米の穂=エタノホ

-いま、どれくらいの広さでやってるの?

【あっきー】2反2畝くらい。

-それは今後増えていく予定?

【まさ】どうだろう。生活するのにお金は必要だし、できれば増やして売っていきたいと…(多分みんな)思ってる。効率が上がってきたら面積も増やせるし、増えた分だけ売る量も増えてくるとは思うけれど。

仕事と「エタノホ」の活動の兼ね合いってどうですか?

【まさ】師匠と集落とメンバーが好きだからやってきたというか。気づいたら7年経ってました。愛着もあるし、エタノホをどうにかしていきたいけど、すぐにはお米で食う(稼ぐ)のは難しいから、うまく落とし所が見つかるといいな。

【あっきー】何よりも、暮らしていかなきゃいけない。どっちかというと、お米は空いた時間でやってるのでそんなに深く考えきれてないというのが正直なところだけど、ようやくこの1、2年くらいで考え始めているから、今年がいいスタートの年。

まだ参加させてもらって3回なんだけど、すごく学びが多くて。“いい” と思ってることを積み重ねてきたんだなーっていう、そういう重みを感じます。

(一同)飽きないよねー。

【ちずみ】感覚的に気持ちいい。

【まさ】(手でやるだけじゃなくて)機械入れたり、試すのが楽しい。食べるものにこだわりがあるかと言われたらそうでもなくて。こうやったらいいんじゃないかって毎年(やり方を)変えられる、試せるのはおもしろいと思う。

-おいしいお米ができるといいです、今年も。

【あっきー】それが一番!

【ちずみ】 食べられる量がとれたらいいよね。

「エタノホ」の活動を伝えるときに、まちの人に知ってほしいことは?

【ちずみ】まちの人っていうのは、都会の人?

-神山町で暮らしている人。まだこの活動を知らない人もいると思うので。

【あっきー】お米づくりに限らず、あえて“手間”をかけることはすごく意義のあることだし、そこからの学びってすごく大きいので、僕らはあえてその道を選択してきた。師匠や集落の人に(昔からの)やり方を教えてもらって、取り入れて、自分たちなりの新しいやり方を発掘している。それは“手間” が一つの基準になっているというか。でも、集落や町内の人からすると、“手間” に対してあまりいいイメージを持っていない。そこをもっと、尊重してほしいな。意義を感じていることを伝えられる一つのツールになると嬉しい。

実際に言われたり…する? 手間暇かけてるのを見て。

【あっきー】全然あるある。かま屋通信で写真(7段ハデ干し/2019年11月号 「写農人」)載せた時は、「写真見たよ。なんであんなめんどくさいことやってんの?」って。(うそ!えーーー。。)

そういうこと大切にしてやってるんです、って言うと「わたしらも昔、やってたわ」って。僕らそういうの好きなんでまた教えてください、って言うと、そこからいい関係が生まれる。手間を介して関係がつながってくるっていうのは僕らの強みなのかな。そこにもっと共感が生まれてきたら、お米を「売る」ということにもつながってくるんじゃないかと。今は家族や仲間、関わってくれた人に食べる喜びを感じて欲しいと思いながらお米を育てています。

【ちずみ】江田集落っていう場所自体はみんな知っている場所。お米を作ってます、手で植えてます、って言うと話題になりやすい。知ってもらおう、とかは思っていないかもしれない。わたしは “売ったらいいんじゃないの” っていうのもあるから、(エタノホを)外に出したらいいと思ってる。
ここで米づくりを続けていることで、お父さんやお母さん、集落のじいちゃんばあちゃんが声かけてくれて「こうしたほうがええぞ」って言ってくれる関係性ができていて。手間暇かけて昔のやり方聞いて、取り込んで、認めてもらって。何年もかかって同じ場所でやっているのは、ここが好きなのかな。集落の人たちとのいい関係性を保てる世代になってったらいいんだろうなと思う。じいちゃんばあちゃんは頑固だったりするだろうけど、そこをウンウンて聞ける状態でいられるか(笑。「こうやりたいんだ」って言ったときに「じゃぁやれや」って言ってくれる関係性ができるかもしれん。お互いにうまく噛み合う部分ができたらいいなっていうのは思うし、町内の他の地域でもそういう関係性ができてきたらいいなって思う。

【まさ】師匠との関係って、家族でも友達でも仕事仲間でもない。もともとは全くの他人だけど、損得勘定なく信頼しあえる関係性。そういう関係性って最近では忘れがちだけど、大切なものだと思う。地縁的なものなのかな。お米もある意味、その関係性をつくる一つのツール…というとおかしいけど、これがないと。ただここにいる、いない、とはなんか違う。米づくりを経た上で風景もできているのを知って欲しいというか。それで、去年はリーフレットもつくった。

想いを伝えるため、昨年つくったリーフレット(新米とともに添えられていた)

【ちずみ】ここ(江田集落)って、助け合っていろいろやってるっていうイメージ。14世帯、何か困ったことがあったら全部に行き渡る。それをして当たり前っていう生活で成り立ってる。自分たちの面倒も見てくれるし(時に怒られることも)。隣近所くらいは知ってても「おはよう」くらいしか言いませんみたいな…そんな関係は寂しい。

【まさ】損得勘定抜きで付き合ってくれる。(他人に)怒られる、とか今の時代はない経験がここではできる。

【あっきー】ここに残ろうと決めたのは、今まさくんが言った通り、師匠に怒られたから。“お客さん” じゃなく接してくれたことがとても嬉しかった。お米づくりはその大切な部分を毎年気づかせてくれる時間だと思う。「お金に走っちゃうと、集落はすぐに関係性が薄れる」という話を上地さん(里山の会)がしていて。関係を維持するためにも、集落の習わしや挨拶一つ、忘れちゃいけないものがあるよな、とこの前伝えてくれたばかり。

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手間を介して関係がつながってくる」、まさにその言葉を地でゆく3人の話。今年はわたしも一緒に“手間”をかけながら、学びの駒を一つひとつ進めていきたいと思っています。

「あー、あと一つ、言っていい?」と最後にあっきーが話してくれたのは「もっと米づくりが身近になるといい」という話。こちら、次号でお伝えすることにします。

▶︎ 「エタノホ」の詳しい活動については こちら をご覧ください。

つづく。

この日誌を書いた人

樋口明日香

NPO法人まちの食農教育
樋口明日香 (ひぐち あすか)

前フードハブ 食育係。徳島市出身。神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年からフードハブに参画。2022年3月より現職。まちの小・中学校、高校、高専の食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる学校食」を模索中。 https://shokuno-edu.org/

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