農業は多様な視点をもったクリエイティブな仕事

つなぐ農園育てる

面白がってる?

「居酒屋デイブ」用に野菜を用意した時のこと。デイブが仕込みのスタッフにラディッシュを洗わなくてよい、なぜなら、このラディッシュはきれいに洗われて納品されているから、何度も洗うと手間もかかり野菜も傷んでしまうから、と言っていました。

なるほど、野菜の用意は、料理の仕込みでもあるのだな、と感じた出来事でした。収穫して出荷して終わりではなくて、料理へと続いていると感じられると、いっそう互いのことを知り、互いに気持ちのよい流れを作り、丁寧な仕事が大切だと思うようになります。

八百屋さんの感覚を大事に

 野菜をパッキングしたり、販売するときは、八百屋さんの感覚を大事にしています。日持ちさせる人参やじゃがいもの根菜類は、土付きの方が乾燥せずに良い状態が保てるから、洗わずに用意することを伝えよう。店頭に並ぶ時には、どの品種があれば充実するかな、今の美味しい野菜は何だろう、どう料理したら美味しいだろうか、畑の様子も伝えよう。野菜のある時ない時は数量を調整する、その理由も知ってもらうことが、安心を届けることのように思います。

野菜選びは、料理人のつもりで

 野菜を選ぶときは、料理人のつもりで考えると、視野が広がります。野菜からメニューが決まることもあれば、料理に合わせて野菜の品種やサイズが決まることもある。どう調理すると美味しいか、料理人から学びます。トマトを育てるならバジルもいるよね、なんて組み合わせも大事。どんな野菜を育てるかは、季節の料理とセット。料理人はそら豆を生で味わうだろう、フェンネルはパスタに、トレビスはグリルにするだろうから、って料理人のつもりで種を播いていることもあります。

種まきは、ペストリーの気分で

 ポットに種を播くときは、カップケーキを作っているペストリーの気分。水分量が均一になるように育苗培土を練り過ぎないように混ぜるのは、生地作りのようです。ポットに均一の量をいれて土の中の成分にムラが出ないようにして。種を一粒ずつ播いているのはトッピングかしら。乾燥防止に別の土を振りかけてコーティング。均一に満遍なく水やりするのも技術です。あとは太陽(火力)にお任せ。お菓子作りが上手な人は、種まきもきっと上手だろう!って思います。

土づくりはパン屋さんと同じ

 肥料や堆肥を入れているときは、パン屋さんと同じかもしれません。粉をミキサーで混ぜるのように、土をトラクターで混ぜながら、堆肥として投入している廃菌床の微生物や、さまざまな菌が活躍ができるように、土ごと発酵させているんですよ。

 そう、農業も、ものづくりの仕事です。ものづくりの仕事と共通することがたくさんあります。

作付け計画は、デザイナー気分

畑の作付け計画をするときは、編集者やデザイナー気分です。図画面上に文字や写真を配置するように、畑のどこに何を植えるかデザインします。連作にならないよう1〜2年単位の大きな設計図を書いて。農業書の資料を読み込み、ベテラン農家に栽培方法を取材します。制作物に締め切りがあるように、野菜も収穫できる期限があるから、納品日から逆算して種を播きます。根菜は運ぶのが重たいので車の搬入しやすいところに植えよう、収穫の頻度が高いものは近くの畑が良いよね。どこから機械を入れてどういう順番で耕していくのか、その畑のデザインは実用的?試行錯誤して修正しながら、現場を作っていきます。できあがるもののクオリティももちろん大事。読みやすい本や、使いやすい道具や、整理された場所って、気持ちが行き届いているからいい気分をもたらしてくれるように、畑がきれいな人ほど仕事が行き届いていていい野菜を作るんですよ。

なにより、農業は製造業

 なにより農業は製造業。畑の面積で生産量の目処は付くけれど、自然の中では秀品率7割が合格ライン、気候変動や栽培技術によっては厳しい時も多々あります。日々変化していく自然のものから販売量を見極め、生鮮を売りきることは結構力がいります。人件費が50%となれば、野菜の利益は作業効率で決まります。ルーティン作業を遂行するには、どう段取りするととスムーズか、どう動けば無理がないのか。製造ラインのオペレーションから、出荷の品質管理まで、常に作業工程を修正します。

 機械を使うときは技術者となり、資材を組み立てるときは大工さんとは言い難いですが。温床の電熱配線をしているひと時は電気屋さんのつもりで気を使います。道路や町が整備されるように、畑の区画を整備して景観を整えることも仕事です。

個性を大事に育てる部分は、学校の先生と似ている

 野菜を育てているときは、学校の先生かもしれません!?きゅうりやナスは肥料も水もたくさん食べる食いしん坊だけど、トマトは肥料が多いと暴れん坊、水が多いと調子が悪い。おなじナス科であっても栽培方法は違います。野菜もそれぞれに個性があって、そこを大切にすると、無理がなくって、元気にのびのび育つような気がしています。時に、雨嵐や日照りにさらされてストレスもあるだろうし、虫がついたり病気になったりすることもあるけど、自然のこと。植物や生き物は日々変化して、育つのですね。農家は野菜を作るというよりは、土を豊かにして、水はけや風通しをよくしたり、防虫ネットで守ったりして、野菜が育つ環境を作って、育つ手助けをしているような気がします。畑を卒園していく様は、寂しくも嬉しくもあるのです。

最高にクリエイティブな仕事

 美しい野菜ができたときは、芸術家!自然の造形にほれぼれします!ある時には研究者。植物生理学から、病害虫の原因まで、探求は果てしない。文化人類学のように地域の風土や暮らしを観察しながら日々フィールドワークです。地域の農業や、種や環境をつなぐことに思考を巡らせます。

 農業も、なかなか大変です。ひたすら重い堆肥を撒いて、黙々とマルチを張って、延々と収穫して。ただの作業であればしんどいかもしれません。しかしこうして気を散らしながら、いろいろな視点を持って作り上げる、最高にクリエイティブな仕事ではないかな、と思うのです。変化し続ける現場の仕事って、最先端。

農業もどんな仕事も、共通することがたくさんあり、日々の暮らしの延長上のことではないでしょうか。農業や日々の暮らしに、いつも面白がっていられたり、心動かされていたいと思っています。生産と消費、効率で測られる構造の枠の中ではなく、自分のこと、として感じられるときに、農業と日常の関わりが深く分かり、オーガニックの可能性ももっと広がるのではないか、と感じています。(例えば、端境期。野菜が途切れないよう、生産性が落ちても、地域の食べ物として考えると生産や加工に取り組む、など)

 日常に農業との関わりを楽しみ共有していけるような、よりよく生きるための地域の農業と、経済的にも持続的な仕組みとは。思い描きながら、日々の作業に奮闘中。春夏の野菜の発芽が揃い、畝も立ててもうすぐ植え付け。面白くなってきました!

この日誌を書いた人


nakaniwa@foodhub.co.jp ()

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