器をとおして考える
「お接待」という名のディレクション

新しいお店『遠近』(おちこち)の、自らが藍で染めた紙の壁の前に立つ東尾さん。実は、壁紙の和紙も楮(こうぞ)から自分で紙すきをして製作している。
新しいお店『遠近』(おちこち)の、自らが藍で染めた紙の壁の前に立つ東尾さん。実は、壁紙の和紙も楮(こうぞ)から自分で紙すきをして製作している。

フードハブ・プロジェクトでは、食堂のかま屋で使用する器の製作から自分たちで手がけています。そこには、どのような想いがあるのか。器をとおして「地産地食」を伝える際、テーマのひとつとして掲げているキーワード、”つくる”をどのように捉え、実践しているのか。

器のディレクションを手がけた、神山町出身の東尾 厚志さんにお話を伺いました。

東尾 厚志 さんプロフィール:

ひがしお・あつし/1972年、徳島県 神山町生まれ。大阪の大学を卒業後、徳島に戻り家具や雑貨を取り扱う会社に勤務。2011年、徳島市内で民藝の器と生活雑貨のお店「東雲 SINONOME」をスタートさせる。2016年10月に同店を閉店し、同年12月、徳島市上八万町に「遠近 (をちこち)」を新たにオープン。

「神山町、神領の上角(うえつの)出身です。
大阪の大学に行ってたんやけど、帰ってきて。そのあと徳島のお店に勤めてて。そこの会社は幅広く商売をやってて、家具とか雑貨を売る仕事をしてました。それで、自分でお店をしたいと思ってスタートしたのが東雲だったんだけど・・・」

徳島市内で5年間続けた民藝の器と生活雑貨のお店「東雲 SINONOME」を2016年10月に閉め、取材した時は、「遠近 (をちこち)」という名前の新しいお店を地元の近くにオープンさせる準備の真っ只中でした。

「なにもしてないんよ、ほんと」

柔らかい口調で語り始めた東尾さんの口から、意外な言葉が返ってきました。

「実際に僕が器をつくるわけではないから。
きっかけづくりというか、僕はそういう機会をつなげていくような役割だと思ってる。

人と人がつながって、つくり手さんが成長できるような機会をどんどん作り出していけたら。だから、あまり強くデザインに干渉することには興味がないというか。ディレクションというより”お接待”かな。なにもしてないもん(笑)。

元々ここの土地にある、来る人に対してなんでもお手伝いするという文化だね」

自身の新店舗にて、手がけた器を横目に話す東尾さん

「いかにつくり手さんにとっても良い機会にしてもらうか。
僕も今回、森さん(大谷焼 森陶器5代目 森 崇史さん)とご一緒して、勉強する機会を与えてもらったことは本当によかったと思ってる。

それに、僕自身まだ経験値が足らんから、そういうのを一緒に考えていって、一緒に悩んでいく。
ちょっと頼むからやってよって、ずるずる引っ張っていく(笑)。
嫌だなって思いながらその人はやっているかもしれないけど、”大丈夫だよ”って言って連れていく。

エネルギーの向かう方向みたいなものを、うまく調整していくのが僕の役割なんかなぁと思ってます」

材料でかたちをつくるのではなく、
材料がかたちをつくる

奥ふたつ(黒&茶)のお皿が、蓮根の土を釉薬に使った大谷焼の伝統的な色味。手前右(深緑)が紺屋灰を釉薬に使用し、手前左(ベージュ)が、フードハブで育てた稲藁の灰を釉薬に使った、かま屋オリジナルのお皿。

「今回製作をお願いした森陶器さん※2には、”本質的なものづくり”が残っていて。脈々と続いてきている何か。基盤が残ってるんじゃないかと。

柳宗悦(やなぎむねよし)※3が “材料でかたちをつくるんじゃなくて、材料がかたちをつくる” って言ってて。徳島は、あまり焼き物向きの土が出ない。だから自然とぼてっとしたものになる。それがいいというか。いわゆる、ローカリティのかたまり。

人間っていうのも同じで。だから、フードハブの真鍋さん※4がやろうとしてることにも、すごく共感できる。

入り口はみんな違っても、生活をよくしていこうとか、新しくしていこうっていう方向にみんなが向かってるような気がする」

※2  森陶器…鳴門市にある大谷焼の窯元
※3  柳 宗悦…民藝運動を起こした思想家
※4  真鍋 太一…フードハブ・プロジェクト支配人

東尾さんの言う”本質的なものづくり”とは、なんなのでしょうか。
その手がかりを探すべく、今回こだわったという器の釉薬についてお話を伺いました。

「鳴門の蓮根畑の土がね、1000度くらいで溶ける。大谷焼は、それを伝統的に、甕(かめ)とか水連鉢の釉薬に使ってきたんだけど、それはぜひ使いたいと思って。

藍染で、藍の発酵に用いる紺屋灰(こんやばい)にしても、昔のひとはもっと灰が身近にあったと思う。普段使ってたから。そのまま畑に捨てても悪くはないんだけど、使えるんやったら使った方がいい。徳島は藍染が有名だけど、つくる過程で灰が残る。焼き物の屋さんはその灰が欲しいんだよね。森さんに話を聞いたら、昔は藍染をやってるひとのところかもらってたって言っていて。

焼き物で使うには、その灰を何回もこさなきゃいけないんだけど、藍染屋さんは、液のほうがいるから。そこで使ってるものは既にこされてる。理にかなってるんだよね。

藁灰(わらばい)に関しては、真鍋さんが、育てるお米にこだわってたから使いたいっていうのが一番にあった。便利な材料が流通してくると、わざわざそういうものを使わなくなって、昔はつながってたものが遠くなっちゃってたりするから」

フードハブ・プロジェクトが育てた稲藁から、釉薬の材料となる藁灰をつくる様子(写真右:森陶器/森 崇史さん)

昨今、藁灰は高価になってしまい、あまり器などでは使われなくなってきているそう。フードハブ・プロジェクトで育てた稲藁を自ら焼いて灰にして窯元に届ける。

「昔は産業としてつながってたものを、僕がちょっとあいだに入ってひと手間かける。それが、またつながっていくんだったら、絶対いいもんができるんちゃうかなって。色やかたちより、そっちのほうが大事なんじゃないかな。」

藍染の過程で出た、紺屋灰の釉薬で作った器。味わいのある深緑になる予定。

「地元のひとって、地元のどういうところに個性があって、強みなのか、麻痺しててわかんない。
そういう、地元にいながらその土地の魅力がわかる感性は持ってなかったらあかんと思うし、それが、ものを選ぶ眼みたいに、すごく大事になってくる。

どこの土地のものかわかんない、みたいなものは、やっぱりフードハブ・プロジェクトの方向性からしたら、求められてないと思ったの。だから、ずっと積み上げてきたものでできてる、大谷焼っていう地元の焼き物の特徴が出るものが欲しいと思ってね」

つながりをとりもどす

食堂「かま屋」でのとある日の食事の風景。撮影:植田 彰弘

「これから、もっといいもんができると思うよ。
まずはこれでスタートするけど、そういう可能性みたいなものを今は感じてる。つくり手さんはすごく頑張ってくれてるんで、発信の部分とか、どういう思いが込められているかっていうのは、僕がちゃんと伝えていかないといけないなぁと思うんですけどね」

その土地のものと、ひとをつなぐ。
点と点をつなぎ、線をつくる。
それを、東尾さんは手伝っているのだと言います。

地元に深く根付いた古き良き文化は、時間の経過とともに忘れられていくこともあります。その文化を絶やさないために、東尾さんはひと手間をかける。

地域に根ざした物づくりをとおし、暮らしを良くしていく。その土地に根付いた文化、材料、つくり手の個性によりそい、つなげていく。

東尾さんのディレクションは、まさに“お接待”そのものです。

2017年3月1日、食堂のかま屋のオープニングレセプションにて、藁灰を使った器を手にする東尾さん

【お店情報】:遠近(をちこち)

〒770-8040 徳島市上八万町樋口266-1
tel & fax 088-612-8800
OPEN 11:00-18:00
定休日:水・木
instagram ochicochi_info
ブログ:よあけまえ 

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