畑や田んぼが「みんなの居場所」になるまで

つなぐ授業レポート食育

食育係の樋口です。

前職は小学校教諭。「歌って踊れるパン先生」を目指して仕事に励んでいましたが、地元徳島の空気のおいしさが恋しくなってUターン。立ち上がったばかりのFood Hub projectに飛び込んで入ったものの、何を進めていいのやら、何ができるのやら、暗中模索の2年間が過ぎ、ようやく3年目を迎えました。

「人」を「良」くすると書いて「食」

「地域の学校との食育」について、昨年度までの2年間の活動を振り返ってみたいと思います。

地域との連携

2017年度までの活動

子どもたちや先生方からの「これ、やってみたいな」の声で一緒に取り組んだ活動は、人や場所が広がりつながり、2017年度は神山町内すべての教育機関・保育所と一緒に活動することができました。まさか2年目でこんなにも地域の学校とかかわれるなんて想像していませんでしたが、ひとえに学校の先生方のパワフルさとご理解とご協力の賜物だと感謝しています。

食育活動の起点

これらフードハブの食育活動の起点となっているのが、白桃茂(しらもも しげ・フードハブ農業指導長、以下「茂さん」)が20年以上前にはじめた神領小学校の米作りです。

(左)茂さん・5年生の稲刈り時の風景

「子どもたちが少しでも農業に興味を持ってくれれば」という想いで始めた取り組みは現在も続いており、フードハブがそれに続いていけるのは、ありがたいことです。

「ちょっと先に目を向ける」ことが大切だと日頃から話している茂さんは「田んぼや畑が、みんなの居場所(集まる場所)になればいい」と言います。わたしは、茂さんの言葉を聞いて、そんな「ちょっと先の神山の景色」をイメージしながら、目下、食育の活動に励んでいるところです。

「猫の手も、借りたい」

わたしが以前働いていた小学校には「猫の手ルーム」という部屋がありました。名前の通り、先生方が「猫の手も借りたい!」という時に、助けに来てくれる地域の人たちのための部屋です。

部屋には1週間の時間割が貼ってあり、「猫の手借りたい!」という時間を先生方がマーク(申請)しています。裁縫(ミシン)が得意な人、歌が得意な人、子どもと遊ぶのが得意な人、1人の子どもに丁寧に教えるのが得意な人、それぞれの持ち味を活かしながら地域のおとなが子どもたちとかかわり、先生方にとっては強力な助っ人となっているのでした。

見合ったお給料が出るわけではありません。けれども、たえず来てくれる人がいました。

「ちょっと手伝って!」に、こたえたい。

フードハブの食育の取り組みにも前述の「猫の手」と共通している点があります。それは、先生方の「ちょっと手伝って!」にこたえるかたちで一緒に野菜づくりや調理等の「食」にまつわるモノゴトに取り組んできたという点。

小学校5年生・教室で「はでかけ」をしている風景

ちゃんと先生方の「猫の手」になれているかどうかはわかりませんが「学校だけだとちょっと難しい」と感じるところに、地域の会社としてかかわれたのだとしたら、それはとてもうれしいことだなと思うのです。

茂さんのいう『畑や田んぼが「居場所」になる』ということは、つまり、「食」を中心に、何かと何かがつながっていくということ。

小学校5年生が収穫したもち米:通称「よごれもち(70年以上つないできた種・品種名はない)」

始まったばかりの小さな取り組みばかりですが、そんな「つながり」が感じられた場面を、昨年度の取り組みからいくつか紹介したいと思います。


神領小学校と広野小学校の5年生「もち米作り」

塩水のなかに上級生から受け継いだ「種(種籾)」を入れ、選別している風景

もち米づくりは5年生から次の5年生(現4年生)へ「種をつなぐ」というのが大きなつながりを感じる場面の一つ。そして「先人の知恵」を知ることも、世代を超えたつながりです。

機械や道具を使えば何だって楽にできる毎日の生活だけれど、「生卵の頭が10円玉くらい浮かんできたらちょうどいい塩分濃度」なんてこと、機械で塩分濃度をはかるより、うんと楽しくて、ワクワクします。

「育てる」「食べる」ことに関連する作業には、先人の知恵がぎっしり詰まっています。

神領小学校2年生の「2こ2こ農園」(夏野菜づくり)

5年生が取り組んだ「もち米づくり」から出た稲わらや糠などは、2年生の野菜づくりに生かしました。

5年生のもち米の「米糠」「種もみ」から作った「ボカシ肥料」を使いました。

同じく5年生のもち米づくりで出た「稲わら」を、ビニールマルチの代わりに使いました。

「農業」は、出てくるいろいろを無駄なく資源化できる学びの宝庫。そして、5年生と2年生をつなげてくれるスーパーツールです。

3年生の「大豆プロジェクト」から、豆腐づくり

国語科「すがたをかえる大豆」の体験版です。

今年度は大豆を「育てる」ところから取り組みましたが、自分たちの畑の大豆は収穫できず残念な結果に…。

9月までは順調に成長していました。

それでも「大豆が手に入るのなら、豆腐を作ってみたい!」という子どもたちの声を聞き、フードハブで収穫した大豆を使って豆腐づくりをしました。

豆腐づくりのプロである隣村・佐那河内村の(有)村のおっさん・桑原さんがスペシャルゲストティーチャーです。

小学校3年生・クライマックス!にがりを入れる瞬間。

(活動の詳細は大豆プロジェクト(後編)に書いています。)

『作ってわかったことは、にがりがしょっぱくて苦いのに、とうふとまぜてにるとおいしいとうふになることです。』

『自分で作ったとうふはスーパーで売っているとうふよりおいしかったです。』

『完成したとうふは、大豆の味が強くて「大豆から作った」という感じがしました。』

『売っているとうふは白いのに、自分で作ったとうふは黄色かったのでびっくりしました。しょうゆをつけずに食べてもあまくておいしかったです。』

『おいしいとうふができた理由は桑原さんがやさしく教えてくれたからだと思いました。とうふの作り方を教えてくれてありがとうございました。』

神山町で採れた大豆を使った「豆腐づくり」を通して、地域のプロと子どもたちがつながりました。

3・4年生と高校生の「神山給食プロジェクト」

小学生が「神山らしい給食」の献立を考え、高校生と一般の参加者がいっしょに作って食べる「神山給食プロジェクト」を実施しました。こちらは、株式会社えんがわさんの企画でスタートしたイベント。4K徳島国際映画祭の会場・神山分校の調理室を使って実施しました。

小学校3・4年生が考えた給食の献立(試作)を作って届けていっしょに食べる高校生たち(小学校の教室で)。

みんな揃って「いただきます」

小学生から手紙をもらった高校生が「本気でやらなあかん!」と目の色が変わった場面は、異年齢で交流することの良さを感じる一コマでした。当日は一部の小学生たちと、高校生と先生、町内外の一般参加の方々みんなで給食を作って食べました。

(詳細は、みんなで作って食べよう!神山給食プロジェクトに書いています。)

地域で採れたものを、みんなで作ってみんなで食べる。

やっていることはごくごく普通のことなんだけれど、みんなでやると楽しい。おいしい。周りの人たちと分かち合えるとなんだかホッとする。いい気持ちになる。

「食」はいろんなものを繋いでくれる大事な役割を持っていることを改めて感じたプロジェクトでした。

1年生の「冬野菜づくり」から、収穫&調理実習

8種類の種のなかから、好きなものを選んで蒔きました。これはレタスの苗を植えているところです。

2ヶ月後。レタスを収穫!

種を蒔き、収穫し、調理するという一連の流れを経験した1年生の中には、劇的に野菜と仲良くなった児童がいました。野菜(食べもの)とひとのつながりが生まれる瞬間に立ち会えたことに感激(涙)!「食」べものとの関係性を「育」んでいく=食育である、と強く感じた瞬間です。

神山分校生の「お弁当プロジェクト」

神農祭で販売した「ほくコロ弁当ver.2」150食、完売しました。

1年目の取り組みから「もっと〜したい」と2年目につながった2年間連続プロジェクト。お弁当の販売を通して地域社会とつながり、後輩たちへプロジェクトをつなげます。…それにしても、150食を本気で作り上げた彼女たち6名の成長ぶりはとても眩しかった。

お弁当プロジェクト2年連続やり遂げた生活科3年生(当時)。


フードハブの食育方針は、変わらず「地産地食」を地域に根付かせていくことです。

2年間、学校と連携した食育の取り組みを進めてきて感じるのは、そこにいる「ひと(子どもたち・先生方)」とその周りにあるものがつながってできる「化学反応のようなもの」が起きているな、ということ。

「同じことを続けていくことの価値」を感じる活動もあれば、

子どもたちや先生方の言葉から、新しい活動が生まれる楽しさもある。

新しい先生方と、子どもたちと、昨年度とは違った視点や方法で、ここにない新しい化学反応が生まれること、今からわくわくしています。

また、今年度は城西高校神山分校において社会人講師という立場でかかわらせてもらうことになりました。これまでよりさらに一歩踏み込んで、思う存分楽しむ1年にしたいと思っています。

  先生方、地域のみなさま、今年度もどうぞよろしくお願いいたします。

この日誌を書いた人

樋口明日香

NPO法人まちの食農教育
樋口明日香 (ひぐち あすか)

前フードハブ 食育係。徳島市出身。神奈川県で小学校教員として働いたあと2016年からフードハブに参画。2022年3月より現職。まちの小・中学校、高校、高専の食と農の取り組みにかかわりながら「みんなでつくる学校食」を模索中。 https://shokuno-edu.org/

その他の活動

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